世界平和のためにゆっくりと (下) 文化としてのマラソン

【本音を生きる】 エコ・スローマラソン主催者 西 一(はじめ)さん

2016/03/18 00:00

 千葉県印旛市で毎年春に開催されるエコ・スローマラソンは、今年2016年の4月3日(日)で6回目を迎える 。 前日のエコ・スローサミットでは、世界からの参加者が環境やマラソン体験について自分の考えを分かち合う。他のマラソンではみられない企画だ。

 — 印旛のエコ・スローマラソンでの、最長記録は?

 9時間の制限を大幅に上回るタイのカップルがいました。10時間半くらいでした。「なんでこんなに遅れたんですか」と聞いたら、折り返し地点でチューリップ畑が650万本咲いているところで「1時間ほど寝てました」って。タイの人はチューリップを見たことがないので、これは速く走るものではない。可能な限り、チューリップを堪能されたようです。

 — エコ・スローマラソンの特徴は、ゴミは捨てずに、ゴミを拾うということですよね。2014年には195名の参加者が240キロのゴミを途中で広い、2015年には約300名が318キロのゴミを拾ったということですが。

 ゴミひろいは強制ではないです。スタートの地点でみなさんにゴミ袋を手渡していきます。中には要らないと言う人もいます。

 おととし、インドのゴア(旧ポルトガル領で豊かな地だそうです)からきた三名の家族の方たちが、カーストではバラモン(最上級の人)だったそうです。「ゴミ拾いは家のなかでも外でも一生しない。そんなことするなんて、ありえない」「ゴミ袋は要りません」と言われました。

 ところが、3人がゴールするときに、どこで拾ったのかゴミ袋にゴミを詰めてきて、それを両手に掲げて「見てくれ。俺たちはゴミ拾いをやったんだ」と。これを見たときに、僕たちのマラソンは3千年、4千年続くカースト制度の中で生きてきた人たちも変えることができるんだと思いました。

 — 枠組みから自分の魂が解放されたんですね。

 カルチャーチャックを受けたんですね。エコ・スローマラソンは、スポーツというより文化なんです。特にシンガポールの人たちは熱心にゴミを拾っていました。ゴミも拾わずにただ走っている自分のみすぼらしさに気づいたんですね。ゴミ拾いってかっこいいと思う層が世界には確実にいるんです。

 このイベントを続けるということは、地域の人が見にくるようになったとき、子供達がゴミを拾っている外国人を見て「かっこいいな。僕も大きくなったらこういう人間になりたい」と思ってもらえればと思っています。これが生きた環境教育です。

 — エコ・スローマラソンの意義とは?

 大会を通して「強者の論理」Winner Takes Allを超えた、競わずに協力しあう価値観を人類は持ち得るということを世界に広げたいです。

 今世紀、いつかは断言できないけれど、世界のいろいろなところで、人々の心の中で描いていた、戦争がない社会というのはこういうことを言っているのかと気づいてもらえる瞬間が来ると思います。

 戦争が起こり得ない社会を、人類が今世紀に作り上げる地球規模の合意が生まれることを僕は期待しています。

 「強者の論理」は、昔、石器時代に、自分たちの集落、自分たちの家族の食べ物がなくなったときに、隣の部落を襲うか隣人の食べ物を奪うしかなく、石を投げ、槍を使ったところからきています。これはまさに今のミサイルとか銃と同じです。いろいろなハイテク兵器もこの延長だと思います。

 今は文明社会だと思っても、頭の中で「強者の論理」 を信じている限り、人類は石器時代からはなんの進歩もしていない。

 エコ・スローマラソンの根底にあるものは、それとは全く逆の「万物と調和し、心穏やかに、共に分かち合おう」Live in Harmony, Live in Peace, Live Togetherです。 物理学者の湯川秀樹博士が核兵器廃絶を提案されたように、戦争が起こり得ない恒久的な平和社会の構築を、 一人一人の人間が徹底すれば、夢ではなくゴールとして実現すると思っています。

 —  ご自分の人生について最後に一言、お願いします。

 世界の人々を巻き込み、互いの大きな信頼をベースにしながら協力を通してゴールに達成することを自らの使命とします。これから250ヶ国・地域で走り続け、33年後に100歳を迎えたときには、自らの人生の折返し地点として1,000回目のマラソンを楽しもうと思っています。そんな人生にワクワクしています。

 — ありがとうございました 。ゆっくりと楽しくご活躍されることを応援します。

 記者ノート:インタビューのあと、心が暖かく、嬉しい気持ちになっていた。自分の心の中から競合性、ねたみ、恨みを取り除けば、人間幸せになれるんだ、という素朴なあたりまえのことが伝わってきた。将来、福島県いわき市での開催も希望され、100歳で迎える1000回目のマラソンは故郷の京都での完走を計画されている。今回は前向きなメッセージを世界に発信する善良な方との出逢いがあった。

(文:鶴田ゆかり)

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 第6回 ECO SLOW MARATHON INBA エコ・スローマラソン印旛
 開催日:2016年04月03日(日)開催
 申込締切: 2016年04月02日(土)
 ホームページ:http://ecoinba.blogspot.co.uk/

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