中国 組織構造改革に着手 改革案から読む習政権の意図

2017/01/04
更新: 2017/01/04

香港メディアはこのほど、習政権が中国共産党指導層組織の構造と人事編制の抜本的な構造改革に着手したことを報じた。今回の構造改革では、「総書記」という党最高指導者の名称を「主席」に変更するとともに、新たに副主席のポストを設け、国務院総理と人民代表大会委員長を自動的に副主席に就任させるという新たな政治構造を構築しようとしている。

構造改革が実現すると、現行の政治局常委が実質的に格下げされる。一方、党が政府の上位に位置している現在の関係が対等なものに近づき、党の影響力が弱まるよう是正される。

組織構造改革に関する提案書における3つの注目点

香港の雑誌『争鳴』12月号によると、今年の11月中旬、中国共産党中央政治局と19大準備組は一部の党高官に対し、党中央上層部の組織構造改革に関する提案書及び意見募集稿を配布した。

この提案書では、党中央組織構造と人事編制に関連する一連の改革について触れられているが、中でも次の3つの点が非常に興味深い。

1、「総書記」の代わりに「中央委員会主席」を設ける。さらに新たに2名の副主席を設け、副主席は全国人民代表大会委員長と国務院総理がそれぞれ担当する。

2、中央書記処総書記、常務書記を設け、中央書記処は中央政治局と中央委員会主席の指示に従って党・政府・軍に関する業務を行う。

3、中央軍事委員会は常務委員会を設け、中央軍事委員会には4名の副主席を設けて、国務院総理と中央書記処総書記は自動的にその副主席に就任する。

常委制は有名無実化し、政府の軍への影響力は増大

これらの情報について時事評論家の唐靖遠氏は、新しい組織構造においては、中央委員会主席と2人の副主席の3人は実質的な党指導者層の中枢になり、政権運営の中枢機関としての中央書記処は、中央委員会主席の指示を仰ぎ政務処理を行うものになると分析している。

唐氏は、「こうした改革を実施する最大の狙いは、現行の常委制度を有名無実化させて、常委を名目だけのポストにしてしまうことにある。そうすれば、常委が主席の意向を無視したり、主導権を争ったりすることで国政を混乱させるという状況を回避する一方、上層部の権力を集中させることもできる」と語り、更に、

「国務院総理と中央書記処総書記を中央軍委副主席に就任させることによって、一部の軍権が国の行政システムの中で掌握されるようになるため(訳注)、政府の軍への影響力を強化することができ、軍幹部が軍隊を私兵のように掌握することを防ぐことにつながる。これは国家監察委を設立させることで、党の力を弱めて政府の権限を強めようとしている習政権の構想と基本的に一致している」とも分析している。

権力構造の単純化により、上意下達の効率を上げる

現在の中国共産党の権力構造は上から順に、党総書記1人、政治局常委7人、政治局委員25人、中央委員205人、中央候補委員171人からなるピラミッド型の権力構造となっている。

それに対し、19大準備組が提案した新たな権力構造では、中央委員会主席1人(習国家主席)、副主席2人(王岐山人大委員長と李克強国務院総理)が就任するが、その下には常委らが占める中間層が存在せず、直接中委主席の命令に基づき中央書記処が各部門と協調して具体的な政策を実施することになっている。

習主席の意向を書記処の総書記に伝えるだけで、各省市や各部委にそれを通達できる、このようなシステムを構築することが可能になる。これにより、習主席の核心としての働きを強化するだけでなく、これまでのように習主席の実施しようとする様々な政策が中間層で妨害を受けたり遅延させられたりすることも減り、習陣営が推進する改革を加速させることができる。

つまり、中南海の最高権力構造が、これまでの総書記+常委の7人という体制から、主席1人+副主席2人という形に変更され、政治局常委が降格され、重要事項の決定権は中委主席習近平とその補佐を務める2人の副主席に渡され、さらに書記処総書記が直接中委主席の指示を受け政策の実行を推し進めるということになる。

姿を見せつつある19大後の権力構造

こうしたことから考えると、この構造改革を実施するにあたり習主席にとって最も重要なことは、人大委員長、総理、書記処総書記の席に信頼できる人物を据えることに他ならない。

 

2012年に開催された18大の前には王岐山氏が人大委員長を引き継ぐとの情報が数多く流れたが、今回は、習陣営にとって欠かせない人物である王岐山氏が19大で留任し、国家監察委主任を兼任しながら人大委員長にも就任するのではと思われる。

李克強氏が総理を受け持つことが、18大で胡錦濤前国家主席が残した「胡習同盟」における決定事項であるから、習主席が劉鶴氏をいかに重用しようとも、李克強氏が国務院総理であることは決して揺るがない。江派メディアは李総理と習主席の不和をことさらに報じ、両者の関係がこじれていると盛んに宣伝したが、これらは憶測にすぎない。李克強総理は、習主席の政治改革に全力を挙げて協力しなければ、中国経済に新たな可能性を見出すことなど不可能だということを深く理解している。

また早くから習核心への支持を表明していた栗戦書氏は、習主席にとって最も身近で信頼のおける腹心の1人だが、この人物が劉雲山に代わり中央書記処総書記に就任する可能性がある。

この3人の人事が決定すると、政治局常委が18大に基づく7人で構成されるとしても、19大の常委7人は以下の人事で実現する可能性が高い。

中央委員会主席 習近平

国務院党組書記 李克強

人大党組書記 王岐山

政協党組書記 王沪寧

中央書記処書記 栗戦書

中紀委書記 胡春華

国務院党組副書記 汪洋

訳注:中国の憲法第93条には人民解放軍を国軍と規定した条文はないが、その一方で第22条には人民解放軍は国家の常備軍と規定されている。そして第93条第1項には国家中央軍事委員会と国の機関が全国の武装力を統率すると規定されてはいるが、憲法条文には中国共産党が国家を統率することが謳われている上、国防法で中国の武装力は共産党の統率下にあると明示されている。そのため、中国の軍隊は共産党の軍であると解釈される。

(翻訳編集・島津彰浩)

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