2月14日平昌オリンピック5日目、アイスホッケー女子日本対南北合同チームの試合に声援を送る北朝鮮女性応援団(Carl Court/Getty Images)

「北朝鮮の女性応援団は性奴隷」元音楽団員らが証言

独裁と貧困、核ミサイル脅威という金正恩政権の国際的なマイナスイメージを塗り替え、南北融和を進めるための懐柔策のひとつであるとされる北朝鮮女性応援団。このたび、北朝鮮軍の音楽団員だったという女性脱北者は、女性応援団員たちは性奴隷になっていると亡命先の韓国で語った。

韓国の平昌冬季オリンピックに参加した北朝鮮の女性応援団は229人。軍の女性音楽団員だったリ・ソヨン(42)氏はブルームバーグの取材に応え、女性応援団員の全員が、北朝鮮政府高官に性的行為をしなければならない立場にあると語った。

「韓国で披露する踊りや歌は、魅力的なショーに見えるかもしれない。しかし、彼女たちは政治パーティで、性行為を強いられている。たびたび中央政権の行事に参加させられて、たとえ望んでいなくても、高官と一夜を共にしなければならない」、「女性たちが身体で奉仕する、という人権侵害がある」

リさんは、2008年に韓国に亡命した。現在は、脱北者たちの韓国での生活支援やストレス障害をサポートする新朝鮮女性組合を運営している。 脱北から10年経つが、女性応援団員たちの状況が変化したとの情報は得られていないという。

女性応援団は最前線の戦闘部隊

英BBCの取材に対して、元女性応援団員だったハン・ソヒ氏は、性奴隷的な扱いについては言及しなかったものの、国際スポーツ大会に参加する前の3カ月間は、イデオロギー教育を受けていたと述べた。「未知なる世界に驚かされたり、ショックを受けるべきではない。そして、一分たりとも祖国と金将軍を忘れてはならない―。このように言い聞かされていた」とハン氏は話した。

ハン氏によると、ある女性団員は首元のスカーフに金正日氏の写真を入れ、またある団員は一握りの北朝鮮の土を入れた袋をスーツケースに入れて持ち運んでいたという。

ハン氏は、「私たちはチュチェ思想(注:主体思想と書く、金一族による北朝鮮独自の社会主義思想)を宣伝するための、最前線の戦闘部隊だった。誰よりも優れており、それを敵に披露することを誇りに思っていた」と語った。

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日本の一部メディアは、容姿端麗な彼女たちのオリンピック期間中の動きを追いかけて報じた。いっぽう、言論人からは、金正恩政権の反人道性にスポットをあてなければ、その宣伝策略の便乗と取られてもおかしくないと批判されている。

テレビ番組構成作家で小説家の百田尚樹氏は、時事解説番組・虎ノ門ニュースで2月13日、「日本人を何百人も拉致した北朝鮮が五輪を利用し、美女応援団を派遣し、欺瞞に満ちた見せかけの宣伝をしているのに、日本がこれに乗るようではどうしようもない」とメディアの姿勢を痛烈に批判した。

スポーツ選手も金政権の奴隷

 

「北朝鮮では、金政権が世界のすべて。一言でいえば選手も、応援団も、コーチでさえ金正恩の奴隷になっている。欠陥はなく、政権に忠実な人間が選ばれている。早い段階から『調教』されている」。キム・ヒョンス氏は、北朝鮮国営スポーツチームで、スキー選手だった息子とともに2009年に亡命した。キム氏は、脱北者支援組織「ステッピング・ストーンズ」共同代表を務める。

韓国の元諜報員で国家情報当局(NSC)の元代表であるキム・ジョンボン(61)氏は、平昌オリンピックを終え、帰国した選手団の当局による扱いについて語った。キム氏は現在、韓国にある韓中大学校で外交と防衛の講師を務めている。

「選手団らは平壌に戻ったら、街で一番立派な建物を見せられる。つまり、韓国は『素晴らしい国』と思わせないようにするためだ。その後、選手団は政治学校などに入り、1~3カ月の『道徳教育』を施される」

米紙ニューヨーク・タイムズによると、北朝鮮の応援団や選手団は、24時間体制で厳重な監視を受けていた。どこに行ったか、何を食べたか、ホテルの部屋でさえも、当局関係者の監視下に置かれていたという。

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アジア情勢に詳しい政治学者で起業家イアン・ブレマー氏はツイッターで次のように述べた。「北朝鮮応援団のパフォーマンスはすごい。しかし、彼らは犯罪的な政権のなかの人質である。その姿を(平和の祭典である)オリンピックで見るのは、最も胸を痛めることだ」

(編集・佐渡道世) 

※3月2日10時30分 文章に誤訳があり、訂正いたしました。謹んでおわび申し上げます。

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