焦点:インドで相次ぐ性的暴行事件、語られない「少年被害」

2018/05/22
更新: 2018/05/22

Krishna Das and Aditya Kalra

[ムンバイ 8日 ロイター] – クリケットで遊んでいた場所近くの部屋に少年を誘い込むと、男が部屋のドアと窓を閉め、彼をレイプした──。インドのムンバイに住む14歳の少年が昨年7月、病院のベッドで母親に語った話だ。

少年はその後まもなく亡くなった。両親と警察によれば、事件後に彼が飲んだ殺鼠剤が原因だったという。

警察は、事件の捜査をほぼ諦めている。「新たな手掛りが得られれば、この事件に再び光を当てることもできるが、今のところは迷宮入りだ」と、捜査を担当する警部補はロイターに語った。

モディ首相率いるインド政府は先月、12歳以下の女児に対する性的暴行に死刑を科す制度を導入し、被害者が16歳以下の場合に下する最低刑を厳罰化した。与党優勢の2つの州で8歳の少女と若い女性がレイプされた事件を受けて、大きな抗議行動が起きたためだ。

今回緊急導入された政令は、少年に対する性犯罪には触れていない。政府調査によれば、未成年女子よりも未成年男子の方が被害に遭遇する可能性が高いことが明らかになっている。

この政令は6カ月間で失効するため、政府は法案を提出し、これを法制化する必要がある。政府がこれを法制化する時点で、ジェンダーに中立的な内容へと拡大する予定だと、政府高官は匿名で語った。「少女に適用されることはすべて少年にも適用される」

政府首席報道官にコメントを求めたが回答は得られなかった。

少年に対する性的暴行罪の最低刑は禁固10年であり、16歳以下の少女を暴行した場合の禁固20年に比べて軽い。

「なぜこのような差別があるのか」。レイプされた少年の父親は自宅でロイターの取材に応じ、そう問いかけた。一家が暮らすのは、ムンバイ国際空港近くにある、貧しいインド北部の州などから移ってきた労働者家庭が多く暮らす賑やかな一角にある小さな平屋だ。

母親は嗚咽を漏らしながら、病院で死に瀕した息子に接したときの恐怖を語った。「どうか公正な裁きを」と取材の最後に訴えた。

ロイターが確認した少年の診断書によれば、同性愛者による性的暴行を受けたと記されていた。インドの法律に基づき、レイプの犠牲者とその家族の身元は明かされていない。

<敵意と嘲笑>

 

一般的に警察は、少年に対する暴行事件を扱う場合、配慮が足りない傾向があると、児童に対する性的虐待を問題提起する財団を運営するインシア・ダリワラ氏は語る。

「性的虐待を受けた経験のある成人男性やソーシャルワーカーによれば、少年が性的虐待を受けたと思われる場合、警察が(被害者に対して)敵意を抱いたり、嘲笑したり、さらには(証言を)信用しない傾向があると言われている」とダリワラ氏は語る。

「男性の性的虐待被害者に対して、最もありがちな認識は、『彼らの側でも楽しんでいたのではないか』というものだ」

今回の少年レイプ事件を捜査するムンバイ警察は、男女双方の児童に対する性的虐待の対応について、捜査員らが定期的な研修を受けていると説明している。

また、政府側も警察向けにすべての児童対象のワークショップを開催している、と政府に児童政策について勧告する児童権利保護全国委員会を率いるストゥティ・カッカー氏は説明する。

だが、児童の安全向上に取り組む活動家たちによれば、ニューデリーで2012年に起きた陰惨な集団レイプで若い女性が死亡した事件への怒りを契機として、インドでは女性への性的暴力に対する認識は改善されたものの、男性が被害者の場合、関心ははるかに薄いという。

インド女性児童開発省が2007年、家庭や学校の児童に加えて、労働や路上生活をする児童など計1万2447人を対象に行った調査によれば、半分以上の児童が性的虐待を受けた経験があると回答。被害者の53%は男子だった。首都デリーに限れば、その比率は6割に達する。

その後、同様の調査は行われていないが、一部の活動家や警察は、少年に対する性的虐待の多くが、同性愛につきまとう社会的な恥辱のため、通報されないままだと指摘する。

女性児童開発省は3月、国会への報告で、2016年に少なくとも3万6321件に上る性的虐待が通報されているが、そのうち男子児童が被害を受けたという訴えは467件にとどまっていると述べている。

通報件数自体は少ないにもかかわらず、インド政府は先月、少年に対する性的暴行に焦点を絞った調査実施を命じた。

「子どものころに性的虐待を受けた少年は、性的被害を受けた男性が抱える不名誉さや屈辱ゆえに、生涯を通じて沈黙を保っている」とガンジー女性児童開発相は声明で語った。「これは深刻な問題であり、対処する必要がある」

<家父長制の弊害>

性的虐待の被害者に対してカウンセリングを行うソーシャルワーカーによれば、家父長制が根強く残るインド社会では、女子が男子に比べて多くの制約の下で育てられ、屋外で過ごす時間も短いため、男子児童の方が標的になりやすいと指摘する。

インド西部都市プネーに住む22歳の男性は、5歳のころから2年にわたり、ある男から繰り返しレイプされていたが、このことをどう受け止められるか不安だったため、この悲惨な体験を両親に打ち明けられるようになったのは、たった1年前のことだと語る。

「その男にレイプされていた公園に私は通い続けた」と、ダリワラ氏の財団でカウンセリングを受けていたこの若者は語った。「私はその男が怖かったが、家にいて怠けていると親の目に映ることが嫌だった。母を怒らせたくなかった」

ロイターは、彼が語った詳細を裏付けることができなかった。

いずれは心理的なトラウマを克服するだろうという希望的な観測から、親が息子が受けた虐待被害を報告することに躊躇を覚える場合が多いと、一部の専門家は語る。

前述したプネーの若者は、両親から「前を向いて、この事件に人生を決めさせてはいけない」と言われたと語る。両親にとってもデリケートな話なので、詳細な連絡先はすぐには教えてもらえなかった。

被害をなかなか口にできないこうした状況については、「インディアン・ジャーナル・オブ・サイキアトリー」が昨年掲載した論文がそれを鮮明に描き出している。

レイプ被害を受けた9歳の息子が心理学的治療を受けることに抵抗する父親が漏らした発言を、この論文はこのように引用している。「息子は処女膜を失ったわけでも、妊娠したわけでもない。女々しさを捨て、男らしく振る舞うべきだ」

この論文の共著者であり、バンガロールの病院で上級精神科医を務めるビージャヤンティ・K・S・スブラマニヤン医師は、少年時代に性的暴行を受けたにもかかわらず被害を警察にまったく通報しなかった成人男性を少なくとも8人診察したという。

「少年は被害者のイメージに合わない。家父長制を重んじる社会の下で、彼らは冷静に対処することを期待されている」と同医師は語る。「少年が成長すれば強くなる、だから心理学的治療は必要ない、と人々は考えている。まったく馬鹿げた話だ」

ムンバイでレイプされた少年が自殺した事件を担当する警官は、少年の親たちがこうした事件の通報を躊躇しているため、問題の規模が過小評価されていると警鐘を鳴らす。

「私たちはジェンダーによる差別はしていない。しかし(少年に対する性的暴行事件で)通報があるのは極端な事例だけだ」とアニル・ポファール警部は言う。「今回の事件も、少年が自殺を図らなければ通報されなかったかもしれない」

今回死亡した少年の父親も、息子が自殺を決意していなければ決して警察に訴えようとしなかっただろうと認めており、今では自分が間違っていたことが分かる、と語った。

親が男児に対する性的虐待の通報を躊躇することについて、この父親は「変化が必要だ」と語る。「こうした(悲劇は)他の誰にも起きてはならない」

(翻訳:エァクレーレン)

 

 5月8日、少年がクリケットを楽しんでいた場所近くの部屋に誘い込むと、男はドアと窓を閉め、彼をレイプした──。インドのムンバイに住む14歳の少年が昨年7月、病院のベッドで母親に語った話だ。写真は2012年、ニューデリーで集団レイプに対する抗議運動に参加する母親と少年(2018年 ロイター/Mansi Thapliyal)

 

 

 5月8日、少年がクリケットを楽しんでいた場所近くの部屋に誘い込むと、男はドアと窓を閉め、彼をレイプした──。インドのムンバイに住む14歳の少年が昨年7月、病院のベッドで母親に語った話だ。写真は2012年、ニューデリーで集団レイプに対する抗議運動に参加する母親と少年(2018年 ロイター/Mansi Thapliyal)

 

 

 5月8日、少年がクリケットを楽しんでいた場所近くの部屋に誘い込むと、男はドアと窓を閉め、彼をレイプした──。インドのムンバイに住む14歳の少年が昨年7月、病院のベッドで母親に語った話だ。写真は2012年、ニューデリーで集団レイプに対する抗議運動に参加する母親と少年(2018年 ロイター/Mansi Thapliyal)

 

 

 5月8日、少年がクリケットを楽しんでいた場所近くの部屋に誘い込むと、男はドアと窓を閉め、彼をレイプした──。インドのムンバイに住む14歳の少年が昨年7月、病院のベッドで母親に語った話だ。写真は2012年、ニューデリーで集団レイプに対する抗議運動に参加する母親と少年(2018年 ロイター/Mansi Thapliyal)

 

Reuters
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