焦点:まひ状態のWTO裁定機能、トランプ氏が「首固め」

Tom Miles

[ジュネーブ 18日 ロイター] – トランプ米大統領が、世界貿易機関(WTO)の首元を締め上げている。その要求は明白だ──。自国政府の不利益になるようなWTOルールの解釈を導く紛争処理裁定は今後必要ない、というものだ。

トランプ大統領は、WTO裁定手続きの控訴審にあたる上級委員会で、すべての新たな裁判官の指名に対して拒否権を発動し、事実上、WTOの機能を危機的な状況に陥れている。

トランプスタイルに忠実な米国のデニス・シアWTO大使は、WTOの最高裁とも言える上級委員会を、機能不全な状態にまで縮小させていることに対して、後ろめたさを感じてる様子をみせていない。

「米国は、この機関の現状に満足することを良しとしない」と、シア大使は今月、他国のWTO大使らに述べた。

「米国が今後WTOにもたらすリーダーシップは、より強力で実効性があり、政治的に持続可能な組織の実現に向けて、結果として率直な物言いや、必要な場合には破壊的な行動を伴うことになるだろう」と、同大使は宣言した。

トランプ大統領は、米国企業や労働者に不公平な形で不利益をもたらすとみなした条約や通商慣行と戦うために、世界貿易戦争も辞さない構えだ。中国での過剰生産を理由に、世界中からの鉄鋼やアルミニウム輸入製品に対して関税を課している。

1995年の設立以降、WTOは500件以上の国際的な通商紛争を取り扱い、加盟国は世界貿易の95%に携わっている。世界貿易規模は物品に限っても、年間18兆ドル(約2000兆円)と、WTO設立当初の3倍に膨らんでいる。

<過去への「ワープ」否定>

トランプ政権は、自らの権限を越えた判断を下そうとする無責任な裁判官を抑えこむ必要を感じている。

だが米国の振る舞いについて、他の国は、貿易紛争を交渉によって解決するよりも、事案の中身に関係なく、より強い国が勝つのが通例だったWTO以前の世界に戻ろうとする意思を感じ、組織的な脅威を見て取っている。

トランプ大統領は今年、鉄鋼・アルミニウムの輸入関税に加え、中国による米国の知的財産侵害に対する報復として1500億ドル規模の関税を課すと表明して、国際的な反発を呼んでいる。

どちらも、WTOの紛争解決手続きに持ち込まれる可能性がある。

だが、上級委員会の無力化は、紛争解決手続きの導入以前の時代に単純に「ワープ」することを意味しない、とWTO上級委員会のウジャル・シン・バティア委員長は指摘する。

その代り、敗訴した側が上訴すれば、紛争は宙に浮いた状態になる。また、ルールが守られる見通しが立たなければ、新たなルールを交渉する意義もなくなる。

「上級委員会の麻痺(まひ)は、多国間の貿易システム全体の継続的な運営に、長く深刻な影を落とすだろう」と、同委員長は警鐘を鳴らす。

2017年初め以降、8件の通商紛争が上級委員会に上訴されており、今後もその件数は増える見通しだと、同委員長は言う。オーストラリアのタバコ規制を巡る紛争など、世界の健康関連政策におけるテストケースになると見込まれている案件も含まれる。

米国のシア大使は、WTO規制には「重要な価値」があり、一般的に世界経済の安定に貢献してきたと認めている。「しかし、何かが大きく間違ってしまった」と同大使は主張。

「上級委員会は、われわれの合意を書き換えて加盟国が交渉していない重要なルールを新たに導入しただけでなく、紛争解決の仕組みに関するルールを無視したり書き換えたりすることで、新たな規則を課す自らの力を拡大している」と、同大使は述べた。

WTOが、ダンピング(不当廉売)を調査する米国の手法を否定したことから、両者の関係に亀裂が生じた。これにより、トランプ大統領が「騙し取られている」と主張する中国に対抗する米国の力が、大きく削がれることになった。

<パワー・クラブ>

 

米国が中国を「市場経済」として扱っていないと中国政府が訴えた案件では、米国自体も勝手にルールを書き換えたと批判されている。

「WTOは本当に、ルールに基づく組織なのか。それとも、古参の大国がルールを曲げることができるクラブなのか」。最近行われた紛争のヒヤリングで中国側はそう詰め寄った。

トランプ大統領は、地球温暖化防止の国際的な枠組み「パリ協定」やイラン核合意など、自分が嫌いな合意から撤退する傾向があるが、WTO外交官の多くは、シア大使が今後、紛争解決手続きを順守する提案を行うとの楽観的な見通しを示した。

これまでのところ、上級委員会の裁判官任命に対して米国が発動した拒否権を撤回するよう求める署名には、WTO加盟国の62カ国が賛同している。だが紛争処理の崩壊をどう回避するかについては、何の合意もできていない。

一部の加盟国は、他の調停手段の利用や、米国を除外した紛争解決手続きの導入を議論していると、法律関係者や外交官は話す。

だが、米国の同盟国である日本は、署名には参加しない意向だ。

伊原純一大使は、WTO加盟国は「本来政治的な」紛争からは距離を置くべきだと話す。日本は米国抜きの紛争解決手続きを拒否している。

「私見では、『プランB(代替策)』は存在しない。われわれはプランAしか持たない。解決策を見出すためには、もっと集団的な努力が必要だ」と、伊原大使は話した。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

関連記事
中国軍兵士の7割が一人っ子。戦闘部隊ではこの割合がさらに8割に増える。香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは6日、一人っ子部隊の戦闘力に疑問を呈した。
中華民族は重要な転換点に差し掛かっており、中国共産党による約百年の踏みにじりと侮辱と破壊のため、いまや深刻な危機に陥っている。共産党による民族と国民への迫害の制止を急がなければならない。現在中国の情勢は未曾有の変化をみせている。この特殊な時代において、「豪傑の士」が時勢に沿って偉業を成し遂げれば、中華民族を明るい未来へ導くことができる。それについては、特別な立場にいる習近平氏は実に優位にあり、天意に沿って行動し、共産党を捨て、民族の危機を回避させることができれば、歴史にその名を刻むことができる
2015年11月13日、世界中に衝撃が走った。この日に起きたパリ同時多発テロで、20日までに129人が命を失った。その前日に、レバノンの首都ベイルートで自爆テロが発生、43人が死亡した。10月31日、エジプト発サンクトペテルブルグ行のロシアの旅客機がエジプト・シナイ半島で墜落、乗客乗員224人全員に生還者はいなかった。過激派組織IS(イスラミックステート)」による爆弾テロであることが判明した。
圧政の中国で、命の危険をかえりみず弱者の弁護に取り組む人権派弁護士がいる。拘束や拷問の経験もある北京の弁護士・余文生氏は最近、大紀元のインタビューに答え、自由のない社会に生きているため思考がマヒしてしまった中国人に対して「目を覚ませ」と呼びかける。
ある住民に、病院食を「まずい」と書き込んだだけで、10日間の拘留処分が下った。現代中国の厳しすぎる検閲と言論弾圧は、封建王朝の再来を思わせる。
冷酷さで知られる金正恩・北朝鮮労働党委員長は政敵、反逆者、気に入らない高官を続々と処刑してきた。たとえ相手が親戚であっても例外ではない。叔父の張成沢(チャン・ソンテク)や異母兄の金正男の殺害は世界中に大きな衝撃を与えた。
兵士らの携帯ゲーム依存問題に頭を抱えている中国人民解放軍の新疆軍区当局は11日、駐新疆陸軍部隊の兵士に対してスマートフォン向けゲーム「王者栄耀」などのプレイを全面禁止することを発表した。軍機関紙「解放軍報」は8月、軍内兵士らが携帯ゲームに熱中し過ぎて実際の戦闘力に悪影響を与えたと指摘した。専門家は、軍内規律の悪化は上層部の腐敗と直接に関係するとの見解を示した。
中国軍の最高指導機関、中央軍事委員会がこのほど「史上もっとも厳しい禁酒令」を発動した。軍の風紀・規律の乱れを懸念する声が体制内部から強まっている。
飛行訓練していた中国人民解放軍の最新ステルス戦闘機は、インド軍のレーダーによって探知されていたことが明らかになった。インド軍事情報サイトが報じた。特殊加工が施されたステルス性を持つ軍機は、通常レーダーからは発見できないとされる。