アングル:国会32日間延長、IR法案・外交成果で安倍首相は3選目指す

2018/06/20
更新: 2018/06/20

[東京 20日 ロイター] – 政府・与党は、通常国会の会期を7月22日まで32日間延長することを決めた。安倍晋三政権が重要法案と位置付ける働き方改革法案や、カジノを含む統合型リゾート(IR)関連法案の成立へ万全を期す。法案成立という実績や「外交成果」を追い風に、安倍首相は9月の自民党総裁選における3選を確かなものにしようとの戦略がありそうだ。

20日朝の国会内で記者団に囲まれた自民党の二階俊博幹事長は、会期延長の理由として「働き方改革法案などの重要法案を確実に成立させるため」と述べた。

複数の関係者によると、安倍首相周辺は当初、国会の会期が延長されれば、森友・加計問題で新材料などが出てきた場合、国会で批判が再燃するリスクも視野に延長に消極的だったという。

しかし、20日現在で働き方改革法案、IR関連法案、TPP(環太平洋連携協定)関連法案は、軒並み参院で積み残されている。

その一方、最近の内閣支持率の上昇などもあり、延長した際のリスクは低下。同時に重要法案の成立によるメリットは大きいと判断したようだ。

自民党・参院執行部の中には、7月末までの会期延長を目論む声もあったが、7月22日まで32日間の延長を決断したという。

ただ、安倍首相は7月11日から欧州などを歴訪する予定で、その間の審議はあまり進まない見通し。与野党の対決法案を審議するには「32日間の延長でも、ギリギリの日程」(与党関係者)という。

ある与党関係者は、IR関連法案の優先順位が高いのは、自民党が公明党に配慮した結果と説明する。公明党は党内にギャンブル依存症対策を重視するべきであるとの声が多く、同対策を原案よりも厚めにした経緯がある。

それでも世論調査などでIR法案の早期成立に反対の声が多く、公明党の重視する来年4月の統一地方選や来年夏の参院選との「インターバル」をなるべく長くするため、今国会で成立させる方針を決めたとみられている。

また、別の与党関係者は、米政権内にIR関連法案の早期成立を望む声があり、そうした動きを「忖度」した方が、今後の日米関係にとってプラスとのムードも政府・与党内の一部にあったと話す。

さらに公明党は、水道事業の基盤強化のため、事業者間の広域連携を図る水道法改正案などの成立も目指すよう要請している。18日に発生した大阪府北部地震で水道管が破裂し、断水が継続していることも同法案の成立を促す動きにつながっている。

加えて合区で議員数が減った県選出議員を別の形で議員にする道を開く参院定数6増を図る公職選挙法案も、成立を図る法案リストに加わった。

だが、一部の有識者からは、身を切る改革とは反対方向の「お手盛り」との批判が出ており、野党もこの法案に反対の意向を示している。

安倍首相周辺は、6月10日の新潟県知事選で与党系候補が勝利して以降、政局の流れが安倍首相にとって有利になってきたと判断しており、延長国会で重要法案が次々と成立すれば、首相の実績を強調し、自民党総裁選に臨めるとの展望を描いている。

また、自民党内には、会期延長で自民党総裁選への立候補を予定している石破茂・元幹事長らの立候補声明の時期が後ろ倒しになり、安倍首相にとって有利になるとの思惑もあるという声が出ている。

 

一方、IR関連法案に反対する立憲民主党など野党側は「法案に外資規制が含まれておらず、海外に国富が流出する」(19日の衆院本会議で立憲・福田昭夫衆院議員)として廃案を主張。また、「森友・加計問題に終わりはない」(与党関係者)との見方もあり、時間の経過とともに新材料が浮上する可能性もある。18日の参院決算委員会では、共産党の辰巳孝太郎議員が森友問題を巡り新たな内部文書を独自入手したとして、政権を追及した。

自民党内では、総裁選の展望に関して、現職である安倍首相の優位は揺るがないとの見方がある一方、世論調査で内閣支持率と不支持率が拮抗(きっこう)していることもあり、「総裁選までの3カ月間に環境はいつでも急変する」(自民党関係者)と慎重な意見もある。

 

(竹本能文 編集:田巻一彦)

Reuters
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