押し寄せる中国鉄道貨物、「一帯一路」で欧州大渋滞

2018/07/03
更新: 2018/07/03

[義烏(中国)/マワシェビチェ(ポーランド) 27日 ロイター] – 中国からの貨物列車がポーランドの国境の町マワシェビチェに到着し始めた約10年前、それは画期的な出来事だった。ノートパソコンや自動車を最短2週間で欧州に運べるようになったからだ。だがその運行は、月に1本と極めて少なかった。

しかしこの1年で、欧州まで経済圏を広げようとする中国政府のシルクロード構想に後押しされて運行本数が急増。ひと月最大200本にまで膨れ上がった需要に応えるため、当局は対応に追われている。

インフラの不備と書類手続き処理の遅れが原因で、欧州と中国双方の物流拠点で10日以上も貨物が留め置かれるケースが出ていると物流会社は明かす。

中国当局は、さらなる物流の増加を奨励しており、こうした「大渋滞」は今後悪化する見通しだ。

これは、中国の「一帯一路」構想が一部で成功を収める一方で、相手国の対応が追いついていない現状を浮き彫りにしている。

中国鉄路総公司によると、この国際定期貨物列車は、米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)<HPE.N>のほか、仏スポーツ用品会社デカトロン、スウェーデンの自動車メーカー、ボルボ <VOLVb.ST>などが利用しており、昨年は中国と欧州の間を結ぶ列車3673本が運行された。2016年は1702本、2011年はわずか17本だった。 

同路線は今も採算が取れておらず、国の補助金で支えられている。だが中国の都市政府は、同路線が「一帯一路」の4カ年計画に組み入れられたことを受け、列車の増発に乗り出している。

中国当局は2016年、この輸送網を「中欧班列(チャイナ・レールウェイ・エクスプレス)」と名付け、2020年までに運行本数を年間5000本に拡大する目標を掲げた。

中国鉄路総公司のサイトによると、2011年には重慶とドイツのドュイスブルグを結ぶ1本しかなかった定期貨物列車は、今年4月までに65本に増え、中国43都市と、スペインや英国も含めた14カ国の42地点を結んでいる。

インターレイル・ヨーロッパのマネジング・ディレクター、カーステン・ポットハースト氏は、渋滞に不満を訴える輸送業者の1人だ。欧州鉄道インフラへの政府の投資が不十分だと話す。

「(各国政府は、中国からの)列車が来るとは思っていたが、これほどの本数が来るとは考えていなかった」と、ポットハースト氏は話した。

<渋滞>

渋滞は中欧班列のほぼ全体で起きているが、輸送業者の不満は、貨物の約9割を扱うマワシェビチェに集中している。

中国からカザフスタン、ロシア、ベラルーシを通って運ばれてきたコンテナは、ここでロシア軌間の貨車から、欧州標準軌間の貨車へと積み替えられる。

ここの物流拠点では、2017年は7万4000個近くのコンテナが処理された。2015年の4倍で、ポーランドの税務当局によると、昨年は4億ズウォティ(約118億円)の関税収入があった。

だが、中心的な物流ターミナルを運営する、ポーランド政府管轄下の鉄道輸送会社PKPカーゴ<PKPP.WA>は3月、今後も増加が予想される貨物量をさばくのは現行インフラでは無理だと表明。民間ターミナルを運営するユーロポートは、2017年末の時点で、ベラルーシからポーランドへの入国待ちの列車が最大で100本も連なっていたと明らかにした。

「これは大きな挑戦だが、同時に大きなチャンスでもある」と、PKPカーゴのWarsewicz最高経営責任者(CEO)は3月の時点で話していた。

PKPカーゴは、ロイターの取材に対し、現段階では入国待ちの行列はないとした上で、処理能力を拡大し、民間ターミナル運営業者と協力して積み替え時間の短縮に努めているとメールで回答した。

一方、ポーランド政府のインフラ担当部署は、ベラルーシとの間に2カ所目の検問所開設を検討しているとした。

しかし、運送業者は、整備のスピードが間に合わないのではないかと懸念している。

そしてそれは、マワシェビチェがあるテレスポルの町のイワニエク町長をはじめとした地元の人を心配させている。町や周辺地域は、鉄道輸送の増加の恩恵を受けている。

最近マワシェビチェを訪問したロイター記者は、鉄道ターミナルに積まれた中欧班列のロゴがついた紺色のコンテナや、新しい道路や地元政府の施設を見た。

イワニエク町長は、PKPカーゴの施設整備の規模が輸送量の増加に対応できず、他の輸送拠点に物流を奪われることを懸念している。

「われわれは、この歴史的なチャンスをものにするよう警告を発している。歴史の中の今の5分を使わなければ、すべて終わりだ」と、町長は言った。

<野心的目標>

 

一方の中国では、習近平国家主席の看板政策である一帯一路を他よりも積極的に推し進めようと各市当局がしのぎを削っており、今後も欧州に流れるコンテナの洪水は増え続ける見込みだ。

国営メディアや政府発表によると、中国南西部重慶からは、昨年663本の貨物列車が欧州に向けて発車しており、1000本を目標にしている。兵馬俑で有名な西安も、1000本を目指している。

世界最大級の日用品取引の中心地である東部の浙江省義烏市は、2017年は168本だった運行本数を、今年は350本にする予定だと、鉄道運行会社、義烏時代工業投資のサイモン・ジャン氏は言う。

業界幹部によると、この鉄道輸送網は、貨物量がまだ持続可能な規模に達していないため、現段階では採算が取れておらず、船で輸送するよりコストがかかるという。

だが、船便よりも最大で20日早く着き、航空便よりも安い列車輸送には、自動車や電子機器を売る企業からの需要が集まっている。

「中欧班列のおかげで、輸送コストを削減することができたと思う」と、台湾の電子機器メーカー和碩聯合科技(ペガトロン)の、蘇州を拠点とする輸送ロジスティクス責任者Hu Jie氏は言う。同社は、2015年から鉄道輸送を利用し始めた。

現段階では、中国政府の補助金が鉄道の運行を支えている。

上海の東華大学が昨年公表した研究によると、中国の地方自治体は2011─2016年の間に、欧州と中国を結ぶ途中切り離しのない列車に合計約3億ドル(約330億円)の補助金をつぎ込んだ。

義烏時代工業投資のジャン氏によると、輸送会社は利益を上げるためにはコンテナ1つあたり1万ドルの輸送料金を受け取る必要があるが、補助金のおかげで、料金は1コンテナあたり約3000─6000ドルで済んでいるという。中には、船便とほぼ変わらない1コンテナ1000ドルで請け負う会社もあるといい、「とてもカオスだ」と、ジャン氏は言う。

<インフラの問題>

欧州の対中貿易赤字を反映し、現段階では、欧州から中国への帰路便ははるかに渋滞が少ないという。

ポーランド政府関係者は、中国政府が国内市場を外国の製造業者に開放するために十分な努力をしていないとの懸念があると話した。ある当局者は、一帯一路の新シルクロード構想が、中国製品を欧州にあふれさせる一方通行の入り口になることへの懸念が高まっていると話した。

米国は現在、対中貿易赤字の解消をはかろうと、中国に貿易戦争をちらつかせている。

マワシェビチェでの渋滞が悪化するにつれ、昨年11月に中国との間の列車輸送を開始したフィンランドや、リトアニアやエストニアを経由するルートを検討し始めた輸送業者もある。

だが新たな輸送拠点には、輸送時間が長くかかったり、手続きになじみがなかったり、書類手続きの処理といった問題があったりするなどの欠点もあると、こうした業者は話す。

「輸送網全体のアップグレードと、さらなる駅の建設が必要だ」と、中国中部武漢から列車を運行する武漢漢欧国際物流の幹部は話す。

台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業<2317.TW>傘下のロジスティックス会社ジャスダ・ヨーロッパのマネジング・ディレクター、Ronald Kleijwegt氏は、それは欧州にとっては難しい挑戦になると話す。

「もし、こうしたボトルネック解消の取り組みを始められれば、双方にとってウィンウィンとなる」と、Kleijwegt氏は話し、「だがサプライチェーンの需要やそこで必要とされることは、時に政治家には理解が難しいものだ」と付け加えた。

Brenda Goh and Marcin Goettig(翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)

 6月27日、中国からの貨物列車がポーランドの国境の町マワシェビチェに到着し始めた約10年前、それは画期的な出来事だった。マワシェビチェ近くのコンテナターミナルで5月撮影(2018年 ロイター/Kacper Pempel)

 

 

 6月27日、中国からの貨物列車がポーランドの国境の町マワシェビチェに到着し始めた約10年前、それは画期的な出来事だった。マワシェビチェ近くのコンテナターミナルで5月撮影(2018年 ロイター/Kacper Pempel)

 

 

 6月27日、中国からの貨物列車がポーランドの国境の町マワシェビチェに到着し始めた約10年前、それは画期的な出来事だった。マワシェビチェ近くのコンテナターミナルで5月撮影(2018年 ロイター/Kacper Pempel)

 

Reuters
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