焦点:工業化進む中国養鶏業、1日10億個の卵どう供給するか

2018/07/18
更新: 2018/07/18

Dominique Patton

[邯鄲(中国) 9日 ロイター] – ずらりと並ぶ密封された孵卵器(ふらんき)の赤い扉の向こうでは、日々40万羽のひよこを孵化している──。中国北部にあるこの真新しい施設では、世界最大の規模を誇る中国鶏卵市場において、急速に近代化が進むサプライチェーンの一端を垣間見せている。

豚肉、牛乳、野菜など、中国ではあらゆるものの生産が刷新されており、これまで農家の裏庭で行われていた鶏卵を生むためのめんどり育成も、「工業化された農業」へとシフトしつつある。

約370億ドル(約6200億円)の巨大な中国の鶏卵市場では、標準化された現代的な処理による、品質と安全性の向上が期待されている。近年、食品安全性を巡る一連のスキャンダルの中で、鶏卵のメラミン汚染や高濃度の抗生物質の残留に対する懸念が高まっている中国において、これは重要なステップだ。

また、生鮮農産物市場でバラ売りされる従来の鶏卵よりも、価格の高いブランド鶏卵に対する消費者の需要も拡大している。

「最近では、スーパーマーケットが小規模農家が生産する鶏卵を受け入れなくなっている」とチャイナ・アメリカ・コモディティ・データ・アナリティクスでアナリストを務めるユアン・ソン氏は語る。

また、肥料の扱いや農業による環境影響の軽減を目指す厳しい新規制によって、多くの小規模農家に撤退を迫る結果となっている。ユアン氏によれば、現在、鶏卵生産者の大半は2万─5万羽のめんどりを飼育しており、2年前に比べても大きく様変わりしたという。

地方政府が監視の容易な大規模生産者を優遇しているため、保有1万羽以下の生産者は遠からず廃業する可能性が高い。

<ハイテク孵化場>

こうした急速な変化は投資拡大の追い風となっている。北京の南西約400キロの河北省邯鄲(かんたん)で、1億5000万元(約25億円)を投じて新設された孵化場もその一例だ。

高度に自動化されたこのプラントは、産卵鶏、つまり鶏肉よりも鶏卵の生産向けに育てられるひよこの孵化場としては、世界最大規模である。ここは中国の華裕農業科技とEWグループの遺伝子事業部門ハイライン・インターナショナルによる合弁事業が保有している。

このプラントは1日20万羽、年間で約6000万羽(週1日は清掃に当てられる)の産卵鶏を生産。生後1日のひよこを一括購入したいと望む大規模農場からの需要にも対応できると、米アイオワ州ウェストデモインズに本拠を置くハイライン・インターナショナルのジョナサン・ケイド社長は語る。

「それが、優れたバイオセキュリティの第一歩として、最善の方法だ」とケイド社長は言う。農場の鶏がみな同じ年齢であれば、疾病が蔓延する可能性が低くなるからだという。

孵化場の処理能力を上げるために役立っているのが、輸入された最新世代の設備だ。卵の格付けを自動で行う機械は1時間で6万個の卵を処理し、孵化器に投入する前に許容範囲にある2つのサイズに選別する。卵の大きさが揃っていれば似たような大きさのひよこが生まれ、給餌量も揃えられるからだ。

孵化したら、雌のひよこは、1時間に3500羽を処理できる自動断嘴(だんし)器に送られ、お互いのつつきあいなどを防ぐためにくちばしの先端を切断する。

華裕のワン・リャンツェン会長は、これまで同社の孵化場では約100人のスタッフを必要としていたが、この新プラントではわずか20人だと語る。

<競争激化と疾病のリスク>

 

量的に大きな成長を期待できない産業においては、効率性が重要になる。中国国民1人当たりの鶏卵消費量は、すでに大半の国を上回っており、年間約280個、すなわち国全体では1日でほぼ10億個に達している。そのため、ここから消費が大幅に伸びることは考えにくい。

華裕のようなブリーディング企業は、他社から市場シェアを奪うことで成長しようとしている。

同社は邯鄲に加えて、重慶にも新たな孵化場を建設中であり、こちらでは年間1億8000万羽のひよこを生産する予定だ。中国畜牧業協会によれば、昨年の産卵鶏の総数は約12億羽だった。

また同会長は、東南アジアとアフリカでも産卵鶏のブリーディング事業と孵化場の建設を検討していると言う。

大規模産業施設にとって大切なのは、疾病リスクの抑制だ。昨年、鳥インフルエンザの感染によって数百人が死亡した後、飼養されている鶏には感染がほぼなかったにもかかわらず、鶏卵や鶏肉の価格は、需要減退とともに急落した。

大手企業にとって、このことは他社が廃業に追い込まれる中で事業拡大に踏み切る新たなチャンスとなったが、飼養スタイルが集約的になれば、疾病の流行が与える影響も大幅に拡大する。

昨年は中国のブリーディング用鶏のあいだでマイコプラズマ・シノビエ(MS)による鶏マイコプラズマ症の発生率が高く、華裕も疾病の流行によるダメージを受けたと、ワン会長は語る。この疾病により、産卵鶏による鶏卵生産が減少する可能性がある。

同会長は、新たな孵化場の大きなメリットはバイオセキュリティの高さであり、先進的な換気・環境管理システムにより、生まれたてのひよこの健康を保っていると言う。

「孵化場に入っても、自分が孵化場にいるとは思えないはずだ」と会長は言う。従来のこうした施設につきものの臭いがないからだ。

さらに、生産過程のあらゆる段階で消毒が行われており、従業員は厳しい衛生管理手続に従っているという。

高い水準のバイオセキュリティを備えた安全な環境が、ひよこを育てるために必要だと同会長は指摘する。

非営利組織コンパッション・イン・ワールド・ファーミング(CIWF)の中国支部代表を務めるジェフ・チョウ氏は、生産に対するプレッシャーが高まる中で、動物福祉の改善が二の次にされているのは意外なことではない、と言う。

中国には動物福祉に関する規制はないが、華裕と競合する一部企業は、自発的に、苦痛を与える断嘴作業を段階的に廃止している。

またCIWFは、自社の孵化場から地元の農家向けに雄のひよこを供給し、放し飼いの環境で鶏肉生産用に飼養させている企業もあるという。華裕は、漢方薬の原料として国内で養殖されるヘビの餌として、孵化場で生まれた雄のひよこを売却している。

(翻訳:エァクレーレン)

 

 

 

 

 

 

 

Reuters
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