焦点:トルコ新財務相に通貨危機の洗礼、市場信認に「高い壁」

2018/08/16
更新: 2018/08/16

[イスタンブール 15日 ロイター] – 就任わずか1カ月で、2001年以降で最も深刻な通貨危機に見舞われたトルコのアルバイラク財務相(40)だが、同国経済に対する政治の干渉を否定し、世界の投資家の信認を得るという難題に直面している。

自国通貨リラは今年に入って対ドルで40%近く下落し、13日には一時過去最安値の1ドル=7.24リラに沈んだ。

こうした中、3000人の投資家やエコノミストと16日に電話会議を開催するアルバイラク財務相は、その手腕が試される重要な局面を迎える。

7月にアルバイラク財務相が開いたトルコ経済に関する意見交換会に出席した学界関係者や新聞の論説委員によれば、ファイナンスの博士号を持ち、現場主義者で反対意見に積極的に耳を傾ける同財務相には、十分な職務遂行能力が備わっている。

しかしいくら自信に満ち、対話能力が高いといっても、市場はアルバイラク財務相に対する信認を留保している。なぜなら同氏は妻の父親であるエルドアン大統領に任命されており、そのエルドアン氏こそが物価高騰にもかかわらず金利引き下げを要求し続け、リラ急落をもたらした張本人だからだ。

そのため、トルコの金融政策が経済実態と独立性を維持する中央銀行によって決定され、エルドアン大統領の介入する余地はないのだと、アルバイラク財務相は疑心暗鬼の市場に信じてもらう必要がある。

実際リラが15日にやや持ち直したのは、中銀がリラの流動性を吸収し、政策金利を据え置きながらも借り入れコストを引き上げる措置を実施したからだとエコノミストはみている。

アルバイラク財務相のこれまでの公的な発言が、事態改善に寄与したとも言い難い。

10日には銀行関係者や企業経営者向けに政府の新たな経済計画の説明会を行い、中銀の独立性、財政規律強化、構造改革や「持続的かつ健全な経済成長」を約束したものの、計画の具体的な内容や明確な行動力が見当たらず、市場の懸念を誘った。

ラボバンクの新興国市場ストラテジスト、Piotr Matys氏は「問題はアルバイラク氏に対する信頼の欠如にある」と述べ、市場は財務相がひととおり仕事をするまでの猶予も与えたがっていないとの見方を示した。

<色眼鏡>

ロイターはアルバイラク財務相が7月に開いた意見交換会の出席者5人に取材した。

その中の1人である経済学者で政府系新聞サバハに記事を書いているケレム・アルキン氏は、アルバイラク財務相を「エネルギッシュで、あらゆる種類の意見を受け入れる」人物だと評価。その上で意見交換会におけるアルバイラク氏の様子について「冒頭に短いスピーチをした後は、2時間半にわたって飽くことなくノートを取り、政府とは距離を置いている人々からの意見も歓迎していた」と描写した。

アルバイラク財務相は米国で銀行論とファイナンスを学び、与党・公正発展党(AKP)と近い関係にある複合企業カリク・ホールディングに勤務して最高経営責任者(CEO)に就任した後、3年前に政界入り。それから数カ月でエネルギー天然資源相になり、今年7月に大統領権限強化を果たしたエルドアン氏が、それまで2閣僚がそれぞれ担っていた財務と金融の職掌をアルバイラク氏に一括して任せた。

ところがこの人事が発表された直後、リラは3%近くも値下がりした。

 

投資家は、市場に好意的だったシムシェキ副首相とアバール財務相が内閣を去ったことで、経済政策の非正統的性格がさらに強まるのを心配したためだ。

GAMロンドン・リミテッドの投資ディレクター、ポール・マクナマラ氏は「アルバイラク財務相から受ける強い印象は、エルドアン氏の娘婿という点だ。アルバイラク氏がたとえ財務相に最もふさわしいとしても、(しょせんは親族が重視される)途上国だという色眼鏡で見てしまう」と述べた。

トルコ中銀が3カ月前に緊急利上げに動いた際には、当時のユルドゥルム首相が利上げが必要だとエルドアン大統領を説き伏せた。だがエルドアン氏が7月に政治機構を改編して首相ポストは廃止され、同氏に影響力を行使できる人物はさらに少なくなっている。

アルバイラク財務相も、自身が大幅な追加利上げが妥当だと信じていたとしても、高金利を蛇蝎のごとく嫌うエルドアン大統領に、それが不可欠だと納得させるのは至難の業とみられる。

7月の意見交換会に出席した日刊紙ヒュリエトのエルダル・サグラム論説委員も、アルバイラク財務相の考えは「大方が想定しているよりも市場に近い」と指摘しつつ、エルドアン氏の娘婿という面を踏まえると、自分が思っていることをどれほど実行できるか判断しにくいと、ロイターに語った。

(Humeyra Pamuk記者)

Reuters
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