【子どもに聞かせたい昔話1】お金では買えない宝物

昔、ドイツで飢饉があったときの話です。ある裕福な人が貧しい子どもたち20人を自宅に招いてパンを分け与えました。「ひとり1つずつだよ。食べ物が手に入るようになるまで毎日パンを取りに来なさい」と子どもたちは言われました。

どの子どももバスケットに飛びつき、一番大きなパンを取り合い、パンを手につかむとお礼も言わずにさっさとその場を去って行きました。

しかし、フランシスという少女だけは違いました。彼女は貧しいながらも清潔な身なりで、遠慮がちに部屋の片隅で他の子どもがパンを取り終わるのを待っていました。そして最後に残った一番小さいパンをもらい、主人にお礼を言って帰って行きました。

次の日も同じように、子どもたちは飢えたオオカミのように必死になってパンを奪い合いました。かわいそうにフランシスに残されたパンは、この日も一番小さなもので、他の子のパンの半分もありませんでした。

しかし家で母親がそのパンを切ると、たくさんの輝く銀貨が中からこぼれ落ちました。母親はびっくりして娘に言いました。「このお金をすぐ返しに行っておくれ。どういう訳か間違ってパン生地に入ってしまったに違いないよ」

フランシスがお金を返しに行くと、主人は言いました。「いいや、間違いではない。前もって一番小さいパンにお金を入れておいたのだよ。君にご褒美をあげたかったのさ。覚えておきなさい。大きなものを求めて争うのではなく一番小さなもので満足する人は別の恵みを得るのだよ。それはパンに入っていた銀貨よりずっと価値があるものだ」

無私無欲の心は、何よりも貴重な宝です。秀でた人格には、優しさ、高い徳性、心性が備わっています。他人を優先する人は、他にも素晴らしい資質を備えています。尊敬され、その優雅なふるまいは讃えられ、倫理性の高さには報いがあることでしょう。お金では買えない満ち足りた人生ではありませんか。

(Ancient Tales of Wisdomより)

(翻訳編集・緒川)