【紀元曙光】2021年1月14日

「木の花は、濃きも薄きも、紅梅」(枕草子)。
▼筆者の自宅の窓の外に、紅梅の一輪を見つけた。それだけで今年は特別に嬉しい。華やかなものや、珍しいものを好む清少納言なら「木に咲く花の中では(色が)濃いのも薄いのも、紅梅が最高よ」と明るい声を発しながら、『枕草子』のこの段を書いたかと想像する。
▼平安中期の代表的な女流文学である『枕草子』に描かれた事物は、必ずしも清少納言の目の前にある実景ではない。むしろ、ほとんどが彼女の想起した心中の情景であるのだが、その豊かな感性が次々に焦点を結ぶ映像は、千年後の日本人である私たちに、まさに清少納言がその手に取って示すように見せてくれる。
▼梅は、もちろん日本人が好きな花の一種であるが、原産国は中国である。いつごろ日本に渡来したかは諸説ある。古くは弥生時代に、朝鮮半島経由で渡来人とともに入った。あるいは奈良時代の遣隋使、平安時代の遣唐使がもち帰ったともいう。
▼興味深いのは「梅」の発音である。訓読みは「うめ」音読みは「バイ」だが、古い日本語では「むめ」に近い発音だったらしい。同じく大陸からの渡来物である馬(うま)も、古くは「むま」に近い音だった。渡来物には、桜「さくら」のような元来の訓読みがなく、中国音から派生した発音が転じて訓読みになっている。
▼そこで推測を一つ披露する。紅梅、白梅いずれが先か。「令和」の典拠である『万葉集』の梅の宴に咲いていたのは、先に日本に渡来した「白梅」。新し物好きの清少納言が絶賛したのが、後から渡来した「紅梅」。いかがであろう。