【紀元曙光】2021年1月16日

「受領は倒るる所に土をつかめとこそ云へ」(今昔物語集)。
▼貴族政治がおこなわれた平安時代のこと。受領(ずりょう)とは、簡単に言うならば下級貴族で、都を離れ地方に赴任する役人をいう。表向きの身分は低く、待遇も良くないが、地方官として別の「実入り」があるため、中央での昇進が望めない低い家柄のものは、むしろ受領の道を選んだ。
▼中央集権制の宿命的な欠陥は、汚職を生みやすいことである。引用した『今昔物語集』の一節では、信濃国(長野県)に赴任した藤原陳忠(ふじわらののぶただ)という受領が、任期を終えて京都に帰る途中、山道から谷底へ落ちてしまった。
▼谷底から陳忠の声が聞こえた。「大籠に綱をつけて、おろせ」。家来たちが綱を引き上げると、平茸(ひらたけ)をたくさんかかえた陳忠が、籠に乗って上がってきた。そこで冒頭のセリフ「受領は、倒れたところに土をつかむように、ころんでもただでは起きないものだ」が出る。道徳を無視するなら、受領は、大した稼ぎになるポストである。
▼国家にとっては、害のほうが大きい。こうした儒教文化圏に普遍的にみられる官僚腐敗を、司馬遼太郎さんは「東洋的腐敗」と呼んだ。中国や朝鮮では「あって当然」の現象だが、儒教の劣等生である日本では、だいぶ遠慮がちに現れる。
▼500万円の収賄で元農水大臣が在宅起訴された。金額の多寡にかかわらず、不正許さずで機能する日本の司法は誠に結構であると、つくづく思う。共産党中国の腐敗は、想像を絶して、すさまじい。なにしろ億ではなく「兆」の単位で汚職があるのだ。