焦点:メルケル独首相が引退へ、EU改革にとって吉か凶か

2018/10/31
更新: 2018/10/31

[ブリュッセル 29日 ロイター] – メルケル独首相は29日、キリスト教民主同盟(CDU)が12月に開く党大会で党首として再選を目指さず、首相も4期目の現任期限りで退くと表明し、欧州連合(EU)改革には急ブレーキがかかる事態になった。ただ一部からは、最終的にドイツが欧州統合に向けて積極的な役割を果たすきっかけになるかもしれないとの期待が出ている。

EUの政策担当者や専門家の多くにとっては、今回の出来事はドイツの政治機能まひの長期化と、それに伴うさまざまな悪影響をもたらす公算が大きいと受け止められた。

独立系シンクタンク、ジャック・ドロール・インスティテュートのルーカス・グッテンバーグ副所長は「EUにしてみれば、メルケル氏の発表は12月の首脳会議で何か(合意)が必要な際に、考えられる最悪のタイミングで起きた」と述べた。

12月13─14日のEU首脳会議でマクロン仏大統領などは欧州統合強化に向けた新たな措置を決議したい考えだ。しかしメルケル氏は重要な政策案件について、その1週間前のCDU大会で選出された新党首の判断を仰ぐ必要があるかもしれない。

EU諸国の閣僚らは既に細かいルールの修正で合意しているが、ブレグジット(英のEU離脱)をにらんでより広範なEU改革を打ち出すというマクロン氏の構想は、かすまざるを得ない。

グッテンバーグ氏は「(現在の連立に手間取ったことで)メルケル氏が動ける余地は既にかなり限定されている。マクロン氏らにとっては決して良いニュースではない」と話した。

欧州で13年にわたって重要な仲介者となってきたメルケル氏の影響力後退で、今後各国首脳が新たな対立を解決するのが困難になりかねない面もあるだろう。

東欧諸国のある外交官は「ドイツの存在がなくなり、事態収拾はより難しくなる」と懸念する。

メルケル氏は、ユーロ圏の財政分野にある「南北格差」に関しては周縁国への支援に否定的なドイツ国内のタカ派をなだめる上で大きな役割を果たしてきた。また自身が旧ソ連圏の東ドイツで暮らした経験を踏まえ、最近ではEU補助金や人権問題を巡る「東西対立」で橋渡しに携わっている。

この外交官は「中東欧にとっては、共産党独裁政治の国で生活することの意味を本当に知っているドイツの首相を味方につけていたのはとてつもなく有利な要素だった。その大事さは、失った後でしか分からないだろう」としみじみと語った。

グッテンバーグ氏は、ドイツはこの先も全般的な親EU姿勢やブレグジットに対するEUの既存の方針を守り、イタリアが試みているEUの財政ルール破壊に反対すると予想しつつも、欧州統合の進化に向けた「建設的な」動きはしばらくお休みになるとみている。

一方でシティバンクのエコノミストチームは、ドイツの地方選挙で緑の党が躍進したことがユーロ圏改革にとって追い風となり、フランスで難局に立ち向かうために中道勢力が広範な支持を集めてマクロン氏を大統領の座につかせたように、ドイツでも同じような動きを呼び起こす可能性があるとの見方を示した。

「親EUの緑の党の台頭は、少なくともユーロ圏にとって大きなプラスになり得る」という。

欧州緑の党のフィリップ・ランベール共同代表は「メルケル氏がCDUの統制力を失うとすれば、それはドイツ国内で欧州統合のアイデア自体が失われることになる」と警戒する。それでも、メルケル氏がしがらみから解き放たれ、国民に必ずしもドイツのためにならない改革を受け入れるよう力を注げるようになった点は希望が持てるとの考えだ。

INGジャーマニーのエコノミスト、カルステン・ブゼスキ氏も同意見で、メルケル氏は政治的な遺産(レガシー)を残すための自由を得たと指摘し、ドイツ経済と通貨同盟の改革により大胆に踏み込んでいく可能性があると付け加えた。

シンクタンクのフレンズ・オブ・ヨーロッパのジャイルズ・メリット会長は、メルケル氏の下でドイツは財政黒字を抑制できず、ユーロに緊張をもたらしたと指摘。「『メルケル後』の(政治の)不安定化や混乱を懸念するのは分かるが、近視眼的だ。メルケル氏が退場するという見通しは、ドイツの有権者を自分たちにとって短期的利益より大きな利益、つまり欧州統合へと回帰させる触媒となると期待できる」と述べた。

(Alastair Macdonald記者)

Reuters
関連特集: 国際