女ひとりで世界一周放浪記 10

オーストリア西部の街 インスブルックでハイジごっこ

皆様、こんにちは。前回の記事ではウクライナ滞在中の様子についてお伝えしました。その後、私はウクライナ滞在を終えてハンガリー、チェコ、オーストリアを訪れました。

オーストリアには8月23日から9月13日までの12日間滞在しました。今回は、オーストリア西部の街インスブルックで過ごした日々についてお伝えします。内容は完全に私の趣味の世界なのですが、是非ともお付き合い頂ければと思います。

インスブルックの街の背後に悠然と聳え立つアルプス山脈(田中美久 撮影)

突然ですが、皆様は『アルプスの少女ハイジ』をご存知でしょうか。元々はスイスの作家の児童文学作品で、日本でも翻訳・アニメ化されるなど多くの人々に親しまれてきました。幼くして両親を亡くしたハイジが、美しいアルプスの山で、優しいおじいさんや元気いっぱいのペーターたちと共に天真爛漫にたくましく成長していく物語です。

幼少期にこのアニメを見ていた私は、ハイジの世界観に大きな憧れを抱いていました。壮大なアルプスの大自然や、山奥での自由な暮らし。「いつかアルプスを訪れて、ハイジの世界を体感してみたい」というのが私の長年の夢でした。今回の旅で、その夢を是非とも実現させたいと思っていました。

原作『アルプスの少女ハイジ』の舞台となったのは、スイスのマインフェルトという街です。実際の舞台となった場所を是非訪れてみたかったのですが、スイス訪問の際に大きな障壁となる物価の問題がありました。滞在費や食費など、全て目が飛び出るほど高額なのです。例えばマクドナルドでビッグマックセットを頼むと、なんと1500円ほど。スイスの物価の高さは節約を信条とするバックパッカーにとってかなりの痛手です。

スイスに行くかどうか悩んでいた時に耳にしたのが、隣国オーストリアでも美しいアルプスの山の絶景を楽しむことができるという話でした。オーストリアの物価はスイスと比べるとはるかに安いのです。そこで私は今回スイスに行くことを諦め、オーストリア西部のインスブルックという街へ行くことに決めました。

インスブルックはチロル州の州都で、北はドイツ、南はイタリア、西はスイスの雄大なアルプスの山々に囲まれています。冬はウィンタースポーツが盛んで、過去に2度、冬季オリンピックが開催されたことで知られています。ハプスブルク王朝の影響を受け、旧市街には中世から残る美しい歴史的建造物が多く残されています。

美しい中世の街並みが今なお残る旧市街(田中美久 撮影)

インスブルック滞在で重要だったのは天候でした。何としてでも晴れた日の美しいアルプスを目に焼き付けたかったので、余裕を持って5泊することにしました。宿泊先を決めるのに利用したのはAirbnb(エアビーアンドビー)。これは、現地の人々が自宅などを宿泊施設として提供する、いまや世界的に広まっているサービスです。サービスを利用するためには、まずAirbnb専用のウェブサイトに登録します。希望する国や都市、宿泊施設の形態、宿泊費の相場など複数の条件でホストの絞り込みをし、希望に沿う滞在先を探します。ホストを選ぶ際には、過去に宿泊した方々の書いたレビューを見て判断をすることもできます。お気に入りのホストが見つかったら直接連絡を取り、希望の日程が空いていれば予約確定です。

私は今回、インスブルック在住の20代女性のアパートに宿泊することにしました。彼女は長期旅行で家を留守にするので、その間私が彼女のアパートを貸し切りで自由に使ってもいいということなのです。現地に到着すると、ホストの妹さんが待機していて丁寧にアパートを利用するための簡単なルールや、市内へのアクセス、スーパーの場所などを教えてくれました。中を見渡すと、寝室・キッチン・浴室など全て綺麗に掃除してくれています。キッチンには様々な道具が揃っていて自炊もし放題ですし、浴室はバスタブ付きで洗濯機も利用できます。これはとても快適そうで、ワクワクしました。

キッチンには様々な道具が揃っており、滞在中は自炊を楽しんだ(田中美久 撮影)

Airbnbを利用するメリットとして、1つに「宿泊費が比較的安い」という点があります。夏のヨーロッパでインスブルックのような観光地に宿泊しようとすると、コストがどうしてもかかります。また人気の安いホステルもすぐに埋まりがちです。私は今回、アパートを貸し切りで利用させてもらえるという好条件でありながら、1泊3500円でした。これはとても格安だと思います。またもう1つのメリットは、「その町に暮らしているような気分になれる」という点です。現地の家に身を置き、スーパーで買い出しをして自炊をし、その町の住民になったような気分を味わうことができるのです。

Airbnbを使って滞在したアパート (田中美久 撮影)

さて、素敵な滞在先を確保したところで、次に用意するのは「ハイジのご飯」です。私はハイジの世界観に浸るために、「アルプスの山でハイジが食べていたランチを食べる」というのをどうしてもしてみたかったのです。ハイジがアルプスの山で食べていたもの、何だかご存知でしょうか。正解は、黒パン、チーズ、ミルクです。詳しく言うと、まず黒パンはライ麦で作られたものです。チーズは「ラクレットチーズ」というセミハードチーズの一種で、ミルクはヤギのミルクです。アニメの中のシーンで、おじいさんが暖炉でチーズを炙り、溶けたチーズをパンにかけ、それをハイジがパクパク食べるシーンがあります。これがもうとんでもなく美味しそうなのです。是非とも私も食べてみたかったので、スーパーで食材を買い揃えました。

ある朝起きて空を見上げると、雲1つないピカピカの青空でした。山の天気は変わりやすいため、天気が良いうちに山へ行こうと急いで準備をします。インスブルックの山々には数多くのハイキングやトレッキングコースが点在しています。私はノルトケッテ連峰の中央に位置するハーフェレカー・シュピッツェ(標高2,334m)に行くことにしました。

街の中心地からケーブルカーとロープウェイを乗り継ぎ、ハーフェレカー展望台のある頂上付近まで一気に登ります。山頂に辿り着くまでの所要時間は僅か30分ほどで、初心者でも気軽に登ることができます。そしてついに頂上へ到着。私の目の前に現れたのは360度の大パノラマ、アルプスの山々が織りなす大絶景でした。頂上はとても清々しい気候で、澄んだ空気を吸い込みました。広がる緑の草原のあちこちに羊やヤギたちがいて、のんびりと草を食べています。地面を見下ろすと、可憐な高山植物たちが可愛く顔を覗かせていました。

ハーフェレカーの頂上まではケーブルカーとロープウェイを乗り継いで行く(田中美久 撮影)

うっとりと景色を眺めながら数時間ハイキングを楽しんだところで、待ちに待ったランチタイムです。ハイジの世界観に浸るために、滞在しているアパートのカゴやコップをお借りして持参していました。美しいアルプスの大自然と「ハイジランチ」のコラボレーションが完成です!「ヨーロッパアルプスでハイジの世界を体感してみたい」という夢がついに叶ったのです。私はこの時完全に童心に戻り、憧れのハイジになりきっていました。

アルプスの絶景(田中美久 撮影)

ちなみにラクレットチーズはそのままの状態だと非常にクセが強く独特な香りがします。ラクレットチーズの食べ方として、チーズの切り口を火で炙って溶けた所を削り、パンやじゃがいもや好みの野菜にかけて食べるのが一般的なようです。滞在先に戻った際、ハイジのおじいさんがしていたようにラクレットチーズを炙ってパンや野菜にかけて食べてみました。加熱することで匂いはかなりやわらぎます。味は濃厚でコクがあり、非常に美味しくて驚きました。

滞在先でラクレットチーズを炙ってパンにかけて食べたらとっても美味だった(田中美久 撮影)

インスブルックでの滞在を終えて、私は長年の夢を達成できたという喜びに満ち溢れていました。この先どれだけ歳を重ねても、この美しいアルプスの街で過ごした日々の中で感じた、泣きそうになるほどの胸の高鳴り、自然を慈しむ気持ち、遊ぶことを心から楽しむ気持ちを一生大事にし続けていきたいと思うのです。

私の自己満足の世界でしたが、いかがでしたでしょうか。もしも私のように「ハイジの世界観を一度体験してみたい」という方がいらっしゃれば、物価の高いスイスに行かなくても、隣国のアルプスの山でも十分ハイジの気分に浸ることが出来ます。皆様も是非一度、童心に戻ってハイジになりきってみませんか?

(田中美久)