アングル:党首討論、年金議論すれ違い 「解散間近」の緊迫感と距離

2019/06/20
更新: 2019/06/20

「東京 19日 ロイター] – 安倍晋三首相と野党党首による党首討論が19日行われ、年金問題などで論戦したが、野党第1党の枝野幸男・立憲民主党代表は内閣不信任案の提出などに言及せず、安倍首相が「国民に信を問う」と強く言い放つ場面はなかった。

老後に夫婦で2000万円が不足するという金融庁金融審議会の報告書を巡って野党党首が攻勢に出る場面もあったが、議論のすれ違いも多く、「解散間近」の緊迫感とは距離のある展開となった。

枝野代表は、年金報告書問題を契機に老後への不安感が強まったのではないかと政府の対応を追及。安倍首相は「大きな誤解が生じた。違和感を感じた人もいる」と述べ、金融庁の対応に不手際があったとの認識を示した。

一方、年金の持続性については、民主党政権時代に比べて強まったとも述べて反論した。

ただ、枝野代表が内閣不信任案や首相問責決議案の提案に言及しなかったこともあり安倍政権の継続を巡って正面切ったやり取りはなく、安倍、枝野両氏から「国民の声を聞こう」といった発言もなかった。国民民主党の玉木雄一郎代表、共産党の志位和夫委員長も年金問題に絞って論戦を挑み、衆院解散について質問しなかった。

年金制度の持続性や国民の安心感などについて3野党の代表が質問したが、安倍首相はこの6年間における年金財政の改善など強調。議論がかみ合わないまま、与野党の主張が続く構図になった。

これに対し、最後に質問に立った日本維新の会の片山虎之助共同代表が、安倍首相に衆議院解散の意思をただし、「解散という言葉は、私の頭の片隅にもない」との発言を引き出した。

党首討論と解散が結び付けられて認識されるのは、2012年11月14日の党首討論で当時の野田佳彦首相が、野党・自民党総裁だった安倍氏に対し、衆院定数是正などで自民党の協力を得られるなら、翌々日の16日に「衆院を解散してもいい」と発言した前例があるからだ。

その後、実際に解散が断行され、12月の衆院選で自民党が圧勝して安倍氏が首相に復帰。民主党は野党に転落し、その後、分裂した。

この「成功体験」は自民党内に強く刻印され、衆院選準備の遅れている野党陣営の状況を熟知している一部の自民党議員は、安倍首相が同日選を断行し政権基盤の強化を図ると予想していた。衆院選のタイミングが遅れるほど自民党に不利になるとの予想が広がっていたことも、同日選実施の大きな「根拠」にされてきた。

衆院議員の任期は21年10月だが、19年10月の消費増税や20年夏の東京オリンピック・パラリンピック後の景気の落ち込みを勘案すると、20年秋以降の解散は「与党に不利」(自民党関係者)と認識されている。

自民党内のマクロ経済に詳しい議員からも、世界経済のサイクルを考えると、時間の経過とともに国内景気に陰りが出かねないとの懸念も指摘されていた。

他方、衆院の小選挙区立候補者が不足し、野党の選挙態勢が整っていないことは「与党関係者もよく知っている」(自民党関係者)とされ、野党間の小選挙区での候補者調整、政権獲得のための基本政策のすり合わせもこれからとなっている。

このため、一時は「衆院選をやれば勝てる」(別の自民党関係者)という声が、自民党内に広がっていた。

仮に同日選となる場合、自民党・参院側からは事実上内定している7月21日の投開票を望む声も出ていたという。

だが、今月9日以降、国内主要紙などが相次いで通常国会の会期延長なしと同日選見送り方針を政府が固めたと報道。足元では、参院選単独実施と消費増税の10月実施がセットで織り込まれつつあった。

2000万円問題も与党にとって「強い逆風」と意識され、足元の「解散風」は急速に弱まっている。

その一方、「米中摩擦の影響は深刻。外需の打撃が予想される中で、消費増税はできない。衆院解散で信を問うことになる」、「同日選見送りは、野党に対するカモフラージュ。首相は最終判断していない」との見方も、自民党内にあった。

党首討論の前日の18日夜には、麻生太郎副総理兼財務・金融担当相が、1986年の中曽根康弘首相(当時)による「死んだふり解散」に言及。「安倍首相にしか分からない」と話し、解散の可能性がゼロでないことをほのめかしていた。

こうした中で、18日夜に発生した山形県沖を震源地とする最大震度6強の地震が、安倍首相の政局判断に影響を与えているとの見方が、政府・与党内に浮上した。

余震の可能性も含め日本海側の広範な被災地で生活の混乱が続いており、「安倍首相は、解散は断念したのではないかと考えた」と政府・与党関係者の1人は語る。

党首討論では、安倍首相から野党党首を挑発するような刺激的な発言はなく、解散は「頭の片隅にもない」と否定した。首相の「女房役」である菅義偉官房長官からは、党首討論後の会見で「総理は非常に正直な方。言われたとおりではないか」との発言も出た。

衆院解散はあるのか──という疑念は、会期末の26日まで国会を包み込むことになりそうだ。

(竹本能文 編集:田巻一彦)

Reuters
関連特集: 国際