新型コロナの政治と科学 科学音痴の共和党と似非科学の民主党

2020/08/11
更新: 2020/08/11

前回のコラム新型コロナウイルスの科学を取り上げたが、今回はこれに関連して新型コロナ対策における政治と科学の関係について考えてみたい。

日本では、経済再開に慎重な医師たちと、自粛に猛烈に反対する経済界の人々との対立が強まっている。ただ、その対立に必ずしも党派性があるわけではない。与党自民党が医師会と産業界の両方を支持母体にしているため、玉虫色の対応にならざるを得ないのかもしれない。一方、米国の場合、新型コロナへの対応の党派性はよりはっきりしている。共和党は経済再開積極派で、民主党は慎重派である。

共和党を支持する米国の保守派が自粛に反対する最大の理由は、国家による強制への反感である。米国の保守派は基本的に小さな政府論者である。政府に対しての不信が彼らの思想の根底にある。そのため、ロックダウンで国民の自由を奪うことに味をしめた政府が、これを契機に強い規制を常態化することを恐れている。また、彼らは米国の文化に合わないことの強制にも著しい拒否感を示す。当初、マスク着用に否定的だったのも、それが大きい。

米国保守派の科学リテラシーは総じて低い。保守派の論客として知られるデニス・プレイガーベン・シャピーロは、米国における新型コロナウイルスの死者数がまだ少ないとき、交通事故やインフルエンザの死者数を引き合いに出し、過剰な自粛措置をとることに反対していた。(ベン・シャピーロの場合、妻が医師ということもあり、医学の専門家に人脈を持つので、後に軌道修正した。)

しかし、結果として米国での新型コロナウイルスの死者数は16万人を超えた。これは米国の交通事故やインフルエンザによる年間死者数を大きく上回る。指数関数的増加が見込まれる場合、それまでの累計の死者数をもとに判断してはいけないのだが、米国の保守派にそのレベルの数理リテラシーをもつ人は少ないのが現実である。

一方、民主党を支持する米国左派(リベラル)は、上述の保守派の反応を非科学的だと批判する。その批判自体には妥当性があることが多い。しかしながら、左派自身の主張が科学的かというと、決してそうではない。彼らは科学を装いながら非科学的なことを主張する点で、より質が悪いともいえる。

米国左派による科学や数字を無視した主張の例は枚挙に暇がない。たとえば、彼らはニューヨーク州のクオモ知事(民主党)の新型コロナ対応を称賛している。しかし、同州は3万人を超える新型コロナによる死者数を出し、人口当たりの死者数も50州中2番目に高い。同州の新型コロナ対策は初動も遅く、完全に失敗だった。にもかかわらず、それを批判する声はほとんど聞こえてこないのである。

米国左派の非科学性は、感染拡大防止を理由に大規模な集会を禁止するのに、AntifaやBlack Lives Matterのデモを例外として認める点にも表れている。当然ながら、新型コロナウイルスの感染リスクは、集会の意図によって変化することはない。

また、米国左派は新型コロナウイルスの予防・治療薬の候補であるヒドロキシクロロキンを徹底的に攻撃している。この薬はトランプ大統領が予防のために服用していることで知られているが、それが理由と疑われるような不自然な動きが見られるのである。

今年5月、世界全体を対象にした9万6千人規模の調査で、ヒドロキシクロロキンは新型コロナに効かないばかりか、逆に副作用が見られるとの論文がLancet誌に掲載された。それを受けて、WHOはこの薬の治験を中止するようにとの通達を出した。ところが、この論文に使われたデータには不自然な点が多くあり、世界の研究者120人が連名で著者に公開質問状を出すに至った(残念ながら、その120人に日本人研究者は一人も含まれていない)。著者は質問に答えることができず、論文は撤回される結果となった。この論文に掲載のデータには何らかの捏造、改竄が含まれていたことが濃厚である。

ヒドロキシクロロキンについては、効くとする論文と効かないとする論文が錯綜しており、まだ結論は出せない。しかし、前回紹介したキャンプベル博士もマーテンソン博士も共に訝るのは、不自然な副作用の報告が上がっていることである。ヒドロキシクロロキンは、抗マラリア薬として長年使われてきたが、両博士とも今回新たに報告されているような重篤な副作用は、長年のキャリアの中で聞いたことがないと語る。もし、トランプ大統領を貶めるためにそうした症例が捏造されているとしたら、これは研究倫理上大変な問題である。

このように、ヒドロキシクロロキンの効用については、まだ確定できないにも拘わらず、米国左派はヒドロキシクロロキンが効くという言説を、事実に反するとして検閲でSNSから締め出そうとしている。科学的に争いのある状態であるものに一方的な検閲を行うことは、言論の自由の保障と健全な科学の維持の両面で大きな問題がある。

以上述べたような米国の状況を見ると、日本の状況はまだマシであるように思える。ただ、今の日本で心配なのは、経済を再開したいがゆえに、新型コロナウイルスのリスクを過小評価する学説に世論の支持が集まる傾向が見られることである。前回紹介した、国際医療福祉大の高橋泰教授による日本で重症化率・死亡率が低いのは自然免疫が理由だという説や、日本は既に集団免疫を達成しているという京都大学の上久保特定教授の説がその例である。注意すべきなのは、これらの説は専門家のピア・レビューを経ていないことである。実際、いずれの説も専門家の間では異論が多い。そもそも、日本が集団免疫を達成しているという主張は、今現在新型コロナで入院治療を要する患者数が第一波のときを超えたという事実と明らかに矛盾する。

新型コロナウイルス対策で大事なのは、科学的事実をできるだけ正確に把握し、その上で感染リスクと経済的ダメージのバランスを定量的に比較しながらとるべき対策を考えることである。ところが、現実には事実認識が自分の希望的観測に左右される人が少なくない。経済を再開したい人が、新型コロナウイルスのリスクを甘く見積もる専門家を信じたくなる気持ちは分かる。けれども、そのような感情に基づく意思決定は、経済への影響を理由に出入国規制で後手を踏んだ結果、より大きな経済的損害を生じさせた第一波のときと同じ間違いを繰り返すことになりかねない。

希望的観測ではないレベルで、明るい見通しを与える話が一つある。ニューヨークやロンドンなど、抗体検査で15%程度の人が抗体をもつ地域では感染が収束に向かっているのである。

本来、集団免疫を達成するには、もっと高い数値が必要なはずである。これについてマーテンソン博士は、前回紹介したベータコロナウイルスのメモリーT細胞を既に獲得していた人、および今回の流行で新たにメモリーT細胞獲得した人とあわせて、集団免疫になっているという仮説を自らの動画で述べている。この仮説が正しいとすると、一定レベルの流行が過ぎれば、その後に第二波は来ないことになる。ただし、これはあくまで仮説にすぎないので、前回紹介したNature誌の論文と同様のメモリーT細胞保有に関する調査を要する。

また、感染拡大予防についても興味深い報告がある。日本ではPCR検査の拡大の是非について未だに論争が続いているが、ハーバード大学のミナ博士らは、抗原検査を毎日行った方がPCR検査を1、2週間に一度行うよりも感染予防に有効であるとする論文を発表している。

MedCramには、論文の著者本人へのインタビュー動画も上がっており、自宅で安価(1回1ドル程度)にできる抗原検査のメリットが分かりやすく説明されている。これは感染拡大を防ぎながら経済再開をするための有力な手段を示すもので、日本でも取り上げる価値のある話題だと思うが、なぜかほとんど報じられていない。PCR利権の圧力でないと信じたいが、私にはその真相を確かめる術はない。

当然ながら、科学者にも色々な人がいる。だから、政策決定においては、複数の科学者の意見を比較検討するのが重要である。特に、専門家集団内の議論を経ないで、直接マスコミや政治家にアプローチする科学者には注意した方がよい。それを怠ると、大阪府知事が起こしたイソジン騒ぎに類する騒動を再度起こしかねない。

前回も紹介したキャンプベル博士マーテンソン博士MedCram (シュエルト医師) の3つのチャンネルはいずれも、公式の統計データと多数の学術論文に基づいて解説を行っている。これらに類する専門性の高い科学的情報をもとに、今後の政策決定が行われることを強く願っている。


執筆者:掛谷英紀

筑波大学システム情報系准教授。1993年東京大学理学部生物化学科卒業。1998年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て、現職。専門はメディア工学。特定非営利活動法人言論責任保証協会代表理事。著書に『学問とは何か』(大学教育出版)、『学者のウソ』(ソフトバンク新書)、『「先見力」の授業』(かんき出版)、『知ってますか?理系研究の”常識”』(森北出版)など。

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