「子供の虫歯は誰の責任?」歯科医がその予防法を教えます

虫歯齲蝕(うしょく)とも呼ばれ、歯肉が化膿する歯周病とは異なり、細菌によって歯が浸食される病気です。

世界で一番多い病気

カナダのカルガリーで歯科医院を開くローレンス・リー医師によると、歯周病は華人(中国系)に比較的多く発症するのに対して、虫歯は西洋人やその子供に多いと言います。その主な原因は、甘いものを好んで食べるからです。

世界で一番多い病気と言われるCavity(キャビティ)は「窪み」の意味で、病名としては虫歯を意味する単語です。

リー医師によると「歯に窪みをつくる虫歯は細菌感染に属します。細菌の成長には栄養が必要ですが、その源は口腔にのこる食品の残渣です。とくに糖質は彼らにとって最も良い栄養源なのです」と言います。

「西洋人は甘いデザートを食べるのが好きですが、華人は一般的にこの趣味がないので、白人のほうが虫歯になる確率が高いですね。しかし最近は、華人の子供の虫歯も少なくありません。彼らは砂糖が大好きだからです」

 

子供の虫歯(wattanaphob / PIXTA)

虫歯はこのように進行します

口腔内の細菌は糖分を代謝して酸を産生します。その酸が、歯のミネラルを溶かすのです。

歯の構造は3層に分かれています。一番外側はエナメル質で、体で最も丈夫な物質です。エナメル質は、主にミネラルと有機物で構成されていますが、バクテリアが生成した酸にミネラルが溶けて失われると、硬いエナメル質が軟化して穴ができてしまいます。

エナメル質には神経が通ってないので、この段階では、まだ患者は痛みを感じません。

しかし、このまま放置すると、2、3年後には、象牙質と呼ばれる第2層にまで侵食が広がります。象牙質はエナメル質ほど硬くなく、神経の末端があるので、患者は冷水の浸透や痛みを感じるようになります。

さらに発展すると、細菌の攻撃は第三層から最奥層である歯髄に至ります。ここは神経と血管に富んでおり、非常に敏感な部分です。歯髄が炎症を起こせば、激しい痛みと腫れを覚えます

リー医師は「ここまでくると患者は、歯が痛くて我慢できなくなります。しかし、もうインレー(詰め物)では対応できないので、根本的な治療をしなければなりません」と語ります。

虫歯に詰めるもの

虫歯は、エナメル質の段階であれば治療が簡単で、詰め物をあてるだけで効果があります。

歯の詰め物には2種類あります。

かつては、水銀を含むアマルガム(Amalgam)が多く用いられました。「水銀は合金にすると安定するため、毒性はない」といわれていましたが、この数十年間に環境保護意識が高まったこともあり、アマルガムの製造過程で発生する化学物質が環境を汚染することが懸念されるようになりました。

また最近では、銀を詰めた歯が、審美的観点から受け入れられない人も多くなってきたために、もはやアマルガムは過去のものとされ、歯科医からの引き合いはきわめて少なくなっています。

代わって、今人気なのはコンポジットレジンです。
それには、金属を含まない、真っ白できれい、耐久性が高いという三つの長所があります。アマルガムは歯との接着性が強くないため、穴が小さいと詰め物が抜けてしまいます。歯の詰め物を抜けないようにするため、歯科医は患者の歯の健康な部分を削って、歯の詰め物が穴に密着するようにします。

しかし、新しい技術を採用したコンポジットレジンは、歯と詰め物を化学結合で連結することができますので、歯の穴が小さい場合でもしっかりと結合します。

リー医師は「このようにして詰めた歯は、何十年経っても大丈夫です」と太鼓判を押します。ただし、虫歯の穴が大きすぎる場合は、歯冠(クラウン)で歯を覆う治療もします。

根元からの治療

第3段階まで進行すると、患者は選択の余地がなくなり、根管治療を受けなければなりません。歯髄内の神経や血管をきれいにしてから、中を材料で満たします。

「この場合、歯は死んだように見えますが、まだ役には立ちます。ちょうど森の木のようなもので、木の幹は切り取られ、生命がなくなりますが、それでも家具を作ることができます。歯も同様で、死んでも噛むときに支えとなるのです」

そう語るリー医師が、次に口にしたのは、歯の治療にかかる費用のことでした。
日本のような健康保険制度がない国では、ほぼ実費で歯科治療を受けることになります。

リー医師は、「初期の段階の虫歯なら、簡単な詰め物だけなので費用も安くて済むが、根管治療をする場合、非常に高額な治療費がかかる」と付言しています。

高リスク集団

リー医師は、次の「4つのグループ」の人が虫歯になりやすいと述べています。

4つのグループの人とは、「甘いものを食べるのが好き」「歯を磨かない。磨き方が丁寧でない」「義歯を使用している」「口内の唾液が少ない」という人です。

義歯を使用している人は高齢者が比較的多いですが、どうしても義歯と健康な歯との間に食べ物のかすが溜まりやすいため、虫歯になるリスクも高くなるわけです。
また、唾液の量が少ないことも、口内に食べ物のかすが溜まりやすい原因になります。

唾液の量が少ないことは、遺伝的な要因も考えられますが、例えば抗うつ剤が唾液の分泌を抑制するなど、薬の副作用による場合もあります。
 

定期検診は虫歯予防に大切です。(マハロ/ PIXTA)

虫歯の予防

予防のための最善策の1つは定期的な検査です。

虫歯は幼児や児童によく見られるため、華人の保護者は十分注意してあげてください。

子供には、甘いジュースやお菓子を与え過ぎないようにします。子供が直接果物を食べることは奨励できます。きちんと咀嚼して食べたら、正しく歯を磨いて口の中を常に清潔にします。果物自体が栄養豊富なので、一挙両得です。

リー医師は最後に、一つの教訓として、特に良くない両親の事例に言及しました。
「その親は、子供がまだ乳幼児の頃から、夜寝るとき甘味の入った飲み物を与えていました。子供がそれを飲みながら夢の国に入ると、口の中には糖分が残るのです。

哺乳瓶症候群(Baby Bottle Syndrome)がまだ続く2~3歳の頃には、子供の歯は全て虫歯になってしまいました。一般歯科医では手に負えず、専門の小児歯科医に依頼し、全身麻酔をかけて全ての歯の処置をしました。

巨額な費用がかかるだけでなく、子供に手術のリスクも負わせてしまったのです」
 

(文・林采楓/翻訳編集・鳥飼聡)