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[焦点]再編のうねりが地域金融機関に波及、強まる危機感

【ロイター6月1日=東京】金融再編のうねりが、本格的に地方へ波及してきた。九州の2つの第二地銀が相次いで再編に動き、他の地域金融機関でも合従・連衡に向けた水面下の動きが出てきた。背景には不良債権処理を終えて攻勢に転じたメガバンクが系列化の強化を図り始めたことがあるのに加え、郵貯の民営化で誕生する郵貯銀に地域金融での主役の座を奪われかねないという構造変化がある。再編に取り残されば、生き残れないのではないかとの思惑も広がっている。

 <九州で表面化した第二地銀の再編>

 地域金融再編の渦は、まず九州で浮上した。大分県を地盤とする豊和銀行<8559.FU>は4月28日、公的資金の注入受け入れを表明するとともに、福岡県を地盤とする西日本シティ銀行<8327.T>が豊和銀の30億円増資を引き受けると公表した。

 だが、この結論に至るまで豊和銀の歩んだ道は、決して平坦ではなかった。豊和銀に衝撃だったのは3月の金融庁検査の結果通知だった。自己資本比率が2%台に下がることが確実となり、事態を放置すれば経営破たんに陥りかねない状況になることが判明。3月下旬に水田敬明頭取は、支援先を探し出すことに全力を挙げていた。候補先にはメガバンクも含まれていたが、簡単には見つからず、発表にいたるまで結局、1カ月が過ぎた。

 さらに5月12日には、経営不振に陥っていた熊本ファミリー銀行<8553.FU>が福岡銀行<8326.T>と来春をメドに経営統合を行うと発表。わずか2週間で、九州では豊和銀行と熊本ファミリー銀行の2つ第二地銀が、地元地銀との経営再編に動いた。

 <地方の系列化狙うメガバンク>

 再編の動きは、九州だけにとどまらない。多くの地域金融機関が、新たな提携先や合併先を模索している。この時期に再編への機運が台頭していることについて、ある大手地銀幹部は「不良債権処理が終わり、公的資金の完済にメドを付けたメガバンクが、地銀の取引先獲得に向け、攻勢をかけてくる」とメガバンクの動向を挙げる。

 現実にメガバンクは、地銀の系列化の強化に乗り出している。今年1月、旧東京三菱銀行の系列会合に十六銀行と百十四銀行が加わった。両行とも他のメガバンク系列だったが、前の系列を残したまま、新たに東京三菱銀行系の会合にも加入したかたちだ。

 さらに東京三菱銀行グループとUFJグループの経営統合により、旧UFJ系列の秋田銀行と山口銀行も、旧東京三菱銀行の系列会合のメンバーに加わった。

 あるメガバンク首脳は「系列地銀は固定化されており、新規加入や入れ替えは非常にまれ。それだけに系列化に対する東京三菱銀行の並々ならぬ意欲を感じる」と話す。

 こうした動きの背景には「系列の地銀を通じてメガバンクがグループ証券の投信を販売したり、地方企業の融資案件に地銀ととにに参加する」(別のメガバンク首脳)という狙いある。地銀にとっても、商品の品ぞろえにつながったり、メガバンクと組むことで融資のリスク分散ができるなどのメリットがある。

 <不良債権比率高く、経営効率で劣る第二地銀>

 メガバンクの積極策に対して、特に危機感を強めているのが第二地銀だ。たとえば、不良債権比率を比べると、2%台にまで低下したメガバンクに比べ、地銀の不良債権比率は5%台と依然として高い。中でも、第二地銀は総じて地銀に比べて規模が小さく、経営体力に劣るため、地域の2番手銀行に甘んじているのが実態だ。

 過去の地域金融機関の再編をみても、その対象はすべて第二地銀だ。ここ10年間の地銀と第二地銀の数を比較すると、地銀は1行も減っていないが、1995年4月に65行あった第二地銀は、2006年1月には47行にまで減少。10年間で20行弱が再編・整理されたことになる。 

 鏡味徳房・第二地銀協会長(東日本銀行<8536.T>頭取)は、「1県1行(地銀が各県に1行あればよい)という考え方もあるが、地銀が1行しかなければ競争原理が働かない。それは地域経済に悪影響を与える」と主張する。

 しかし、第二地銀の減少からは、規模や体力の格差が商品やサービスに反映され、それが顧客の金融機関選別に結び付いている姿が透けて見える。

 <地方で激突する郵貯銀と地域金融機関>

 一方、地方金融機関が、メガバンクの攻勢以上に恐怖を感じているのは郵政民営化だ。「郵貯が既成事実を積み上げて業務拡大を行っていくことは、断じて容認することはできない」と、地銀協の瀬谷俊雄会長(東邦銀行<8346.T>頭取)は記者会見のたびに郵貯の業務拡大をけん制する。

 郵政民営化は、2007年10月に「日本郵政株式会社」を持ち株会社として、傘下に郵便貯金銀行、郵便保険会社、郵便局会社、郵便事業会社の4つの事業会社を設置してスタートする。

 日本郵政を率いるのは、三井住友銀行の前頭取だった西川善文社長。西川社長は日本郵政社長に就任以来、郵貯銀行について「融資業務にできるだけ早く進出したい。大企業向けはできないから、融資業務は個人、中小・零細企業(向け)ということになる」と発言し、融資業務への参入意欲を強調している。

 郵貯銀の主戦場は地方だ。網の目のように張り巡らされた郵便局は、すでに地域の利用者と密接な関係を築いている。郵貯銀が顧客のニーズをくみ上げ、新サービスを開始すれば、これまで地銀やその他の地域金融機関で取引をしていた顧客が、郵貯銀にシフトする可能性が高まる。

 その兆候は、現在の郵貯が投信の販売を飛躍的に伸ばしていることからも見てとれる。郵貯は、2005年10月の投信の窓口販売開始以来、2006年4月末まで7カ月間で、21万2338件・1609億6300万円の投信を販売している。

 郵貯が取り扱いを熱望する住宅ローンは、貸し倒れリスクが小さく、融資経験がなくても取り扱いがしやすいだけでなく、融資期間が長期に及ぶため顧客の囲い込みも可能。営業基盤が重なる地銀などから顧客を奪う強力な武器となる。メガバンクという強力なライバルが手薄な地方で、地方金融機関と郵貯銀の顧客争奪が激しくなる見通しだ。 

 <再編に乗り遅れれば、整理される地域金融機関も>

 そこに地方では店舗網が薄いメガバンクも、有力な顧客を獲得しようと様々な戦術を駆使しようとしている。その1つが今年4月から施行された銀行代理店制度の利用だ。郵便局を「地方の出先機関として利用」(メガバンク首脳)し、全国に販売網を拡大しようと狙っている。みずほ銀行が郵便局を代理店にして全国で宝くじを販売することを検討しているのは象徴的だ。

 ただでさえ、貸出先の減少に直面している地域金融機関にとって、郵貯とメガバンクの地方金融への侵食は、看過できない問題になってきている。 

 郵貯銀行の戦略に端を発し、メガバンク、地方金融機関を巻き込んだ地方での戦いに生き残っていくためには、第二地銀などの下位の地方金融機関は経営体力やスケールメリットを求め、合併・再編に歩み出さざる得なくなっている。

 しかし、こうした合併・再編の動きに乗れない、あるいは乗り遅れた地方金融機関は縮小均衡に陥り、やがては整理される可能性もある。

 地方金融機関の再編・整理の動きは、まだ始まったばかりであり、郵便貯金銀行が誕生する2007年10月に向け、これから本格的な動きになっていく。

 (ロイター日本語ニュース 鈴木透 編集委員)

 (06/06/02 12:40)