流行語で読み取る激変の中国(2)

去る08年の中国では、世界から注目を浴びた北京五輪が開催され、四川大地震などの自然災害、貴州甕安市民暴動などの社会事件も相次いだ。

これらの事件において、官と民との対立や伝統的価値観と現代エゴイズムとの相克などが多次元的に反映され、その中で流行語となったものも少なくない。官選の流行語に対し、ネット市民たちは自ら「08年十大流行語」を選出。一般庶民の視点と価値観が伺えて実に興味深い。激動中国の流行語(1)からそれらを逐次、紹介していきたい。

1、原語=你不給我一個説法、我就給你一個説法。

和訳= 納得のいくことをしてくれないなら、俺が納得のいくことをしてやる。

作者は楊佳(28)であった。北京出身で上海に在住していた楊佳は、自転車窃盗の疑いで冤罪を蒙り、拷問を受け心身ともに甚大な打撃を受けていた。冤罪を雪ごうとして、彼は警察側への交渉陳情告訴を幾度も試みたが、取り合ってもらうことはなかった。途方に暮れた彼は自分なりの解決方法を選ぶことを決意し、ついに行動に出た。

08年7月1日(中国共産党建党87年記念日)、彼は納得のいく問題の解決を求め、刃物を持って上海市閘北区の警察署ビルに闖入し、警官6人を刺殺。警官3人と警備員1人に重傷を負わせた。

中国では、警察は絶大な特権を持ち、警官からの暴力や冤罪に対して、 国民は無力である。司法特権を利用して司法をもてあそぶ警察に対して、国民は恨めしく思っても手の打ちようがない。こんな中、この極端に走った楊佳を世論は責めるどころか、「武松」、「義士」、「侠客」、「荊軻」と一辺倒に褒め称え、彼を謳歌する詩歌や絵画なども ネットに怒濤のごとく現れた。

楊佳は逮捕後、こう言ったそうである。「もし、不当な仕打ちを一生ずっと背負うならば、俺は敢えて法に触れても構わない。俺に納得のいくことをしてくれ。納得のいくことをしてくれないなら、俺が納得のいくことをしてやる」。

それで、「納得のいくことをしてくれないなら、俺が納得のいくことをしてやる」という文句がネットで迅速に広がり、ついに民間の暴力に訴えた抵抗を代表するキャッチフレーズとなった。

昨年10月13日、楊佳事件の二審が行われ、北京、上海など全国から楊佳を応援する人々が1000人ほど駆けつけ、上海高裁の外で応援。彼らが身に纏ったTシャツには、楊佳の顔写真のほか、「納得のいくことをしてくれないなら、俺が納得のいくことをしてやる」「侠客不朽!」「共産党打倒!」と印刷されていた。

10月26日午前、上海で楊佳の死刑執行が急遽行われ、サイト上の楊佳関連のコメントなどはすべて削除された。にもかかわらず、楊佳の行動は口伝えで広がっていき、「2008年の流行語」のトップに選ばれた。