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 4月2日、3月調査日銀短観は雇用や設備の需給ひっ迫感が示され、日銀は需給タイト化を背景にいずれ賃金や物価を押し上げるという道筋に変化はないとの見方をしている。写真は、昨年3月に撮影した日銀(2007年 ロイター/Yuriko Nakao)

短観で労働需給タイト化、賃金・物価への波及で政府・日銀にギャップ

 金融政策を運営する上で、政府・日銀の間で争点となりそうな「なぞ」がまた1つ加わった。3月調査日銀短観は、雇用や設備の需給ひっ迫感が示され、日銀は、需給タイト化を背景に、いずれ賃金や物価を押し上げるという道筋に変化はないとの見方をしている。他方、政府は雇用判断DIと労働需給の相関性、賃金の上昇との相関性に疑問を投げかけており、追加利上げのタイミングとも絡み、賃金伸び悩みの背景や消費・物価の先行きの見方などで論争が過熱しそうだ。

 <雇用・設備の需給ひっ迫を確認>

 3月短観では、大企業製造業の雇用人員判断DIがマイナス7となり、1992年2月のマイナス15以来の水準となるなど、企業の人手不足感の高まりが再確認された。全規模・全産業ベースも不足超方向に振れ、非製造業を中心に企業の人手不足感は緩やかであるが着実に高まっている。クレディスイス証券・チーフエコノミストの白川浩道氏は、日銀にとっては早期追加利上げを後押しする要因となったとみる。

 生産・営業設備用判断DIは、引き続き不足超過の動きが中心だが、大企業製造業の生産・営業設備用判断DIはゼロで、20期ぶりに過剰方向の動きとなった。1─3月期の生産は、6四半期ぶりに前期比マイナスに転じる可能性が高く「こうした生産の動きを反映している」(複数の日銀幹部)とし、一時的な動きと見ている。

 日銀は、設備や労働という資源の稼働状況が高まっており、いずれ賃金や物価上昇に結び付くとの見方だ。ある幹部は「需給がひっ迫しても賃金や物価が上がらないという前提では議論しない」とする。

 2月の毎月勤労統計調査で、現金給与総額(事業所規模5人以上)は1人平均で前年比0.7%減の27万1389円と、3カ月連続の減少となった。短観で人手不足感が強まっていることが確認されても、人件費などのコストが物価を押し上げる力は依然として弱い。

 日銀では、団塊世代の退職や地方公務員の給与の引き下げにより、所定内給与は弱含んでいると分析。さらに国際競争の激化や投資家への還元を求める動きなど、企業を取り巻く環境の変化も、所定内給与の上がりづらい背景となっている。

 ただ、配当など通じて家計への還元は進んでいるほか、雇用がタイトになれば、賃金の引き上げは避けられないとみており「ごくゆっくりでも、賃金や物価が上がるという方向性にあることは間違いない」(複数の幹部)との見通しを持っている。 

<雇用判断DIと賃金上昇の相関性に疑問>

 しかし、政府内では、景気拡大−労働需給のひっ迫・GDPギャップ超過方向−賃金上昇−物価上昇との日銀の見方に疑問を投げかけている。実際の成長率が潜在成長率を上回っていればモノの需給はひっ迫しているはず。

 しかし、賃金は伸び悩み、ユニット・レーバー・コストは低迷を続けている。「本当に需給はひっ迫しているのか」(政府筋)という疑問が根底にあるためだ。

 すでに大企業・全産業の雇用判断DIは2005年9月調査以来、不足超過の動きを続け、既に1年半が経過している。過去の経験則から言えば、ユニット・レーバー・コストがプラスになっていてもおかしくないという。賃金伸び悩みの背景として団塊世代の退職という特殊要因を差し引いても、短観の雇用判断DIと賃金の相関関係が薄れているのではないか、とみる根拠の1つとなっている。

 福井俊彦日銀総裁は3月27日の参院財政金融委員会で、失業率がどの程度まで下がると持続的な物価上昇が発生するか、「そのターニングポインがどこかは、今後の金融政策運営上、非常に重要な関心事項である」と述べた。福井総裁は労働市場の構造変化が激しく「単純なシミュレーションではターニングポイントを正確に浮かび上がらせることは難しい」としながらも、「実際の経済・物価、労働需給の変化、賃金の変化などを丹念に追いかけ、ある時点以降、インフレ率に対して屈折的な影響を与えかねない失業率の水準を探り当てる努力はしていきたい」と述べた。

 金融政策運営の判断材料として、いわゆるNAIRU(Non−Accelerating Inflation Rate of Unemployment:インフレを加速させない失業率)への強い関心を示し、失業率がある水準を下回れば賃金に跳ね返ってくるはずだという日銀の論拠を暗に披露した。

 これに対して政府内では「デフレ下での試算は極めて困難」(内閣府筋)との声が挙がる。エコノミストからは「日本の自然失業率は3.5%を下回る。このため潜在成長率を上回る成長が続き、失業率が現在の4.0%を割り込んでも、しばらくはインフレ率の上昇ペースは限られる。インフレ率の加速が生じるのは、失業率が3.5%を下回る状況になってからだ」(BNPパリバ証券・チーフエコノミスト・河野龍太郎氏)との声も聞こえる。 

 日銀は27日に2008年度までを見通す「展望リポート」を公表する。需給がタイト化する中で、賃金や物価は緩やかに上昇するというシナリオが基本になる。

 ただ、足元の経済指標からは、なかなかそうした動きが読み取れないだけに、フォワードルッキングの観点から指標を点検する日銀と、足元の経済情勢に目を凝らす政府の間で、認識のギャップはなかなか埋まりそうにない。


 [東京 2日 ロイター]

 (07/04/03 08:19)  





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