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アジア版「成長の方程式」通用しないインド、抜本策が必要

 中国に続く潜在的な巨大消費市場として、インドへの関心が高まっている。しかし、実際の投資となると日本企業は二の足を踏んでおり、賃金急上昇や人民元高圧力でコストメリットを失いつつある中国から、外国企業が大挙してインドへ輸出拠点を移すには至っていない。

 そこには、アジア諸国の「成長の方程式」がまかり通らないインドの経済環境がある。インドが第2の中国となるには、抜本的な政策対応が必要だと専門家らはみる。

 <産業保護政策を進めるインド>

 「インドでは、NIESやASEAN諸国で通用した『アジアの成長の方程式』が通用しない」と信金中央金庫総合研究所・上席主任研究員の黒岩達也氏は指摘する。アジア諸国では軽工業の発展から始めて、次第に機械工業に成長の軸足を移し、輸出主導の高成長を達成するという方程式が成り立っている。

 他方、インド政府は1967年以降、食品・飲料、繊維・衣料、木材・紙・皮革などの労働集約型産業について、零細企業にのみ生産許可を与える「生産留保制度」を実施して税制優遇や金融支援を与えて手厚く保護する政策を展開。保護対象品目は1967年には47品目だったが、現在では700品目にものぼる。

 「これは社会主義的イデオロギーに沿った政策だが、インドの労働集約型産業の発展を阻害する要因となってきた」と黒岩氏は語る。

 これらの産業は大企業の参入を排除した結果として規模のメリットを失った。留保品目を生産する零細企業は個々の工場の規模が制限されているため、生産能力の拡大に工場数の増加で対応するしかなく、コスト高を招いている。さらに、政府による過剰な保護で市場競争が制限されているため、技術革新能力が育たない。専門家らはこの生産留保制度の見直しと、大胆な規制緩和が必要とみる。

 <中国の後塵を拝した経済改革>

 中国の経済改革は1960年代後半から10年以上続いた文化大革命による社会と経済の荒廃と「改革開放の総設計師」と呼ばれたトウ小平氏が1977年に政権へ復活したことが契機となった。

 インドの経済改革の契機は、湾岸戦争で原油価格が高騰し、インドの国際収支が悪化したことを嫌って在外インド人が預金を一気に引き出したことが発端となった1991年の外貨危機だった。このとき誕生したナラシムハ・ラオ政権は社会主義的混合経済から脱却し、市場重視型の経済改革を推し進めた。

 しかし、インドでは民主主義国家として議会制民主主義が根付いており、トウ小平氏のようなカリスマ的指導者が強いリーダーシップを持ち開発独裁によって経済運営を展開する余地に乏しい。このため、インドの社会・経済政策は中国のようなダイナミズムに欠け、改革のテンポは緩やかにならざるを得ない。

 一方、インド政府の政策運営自体は比較的安定しており、中国のように局面によって大きくブレることが少ないというメリットもある。

 中国がインドに10年余り先んじて市場経済化を推進した結果、一人当たりの国内総生産(GDP)は1980年に、インドが266ドル、中国が310ドルとほぼ拮抗していたが、2005年にはインドの726ドルに対して、中国は1533ドルとインドの2.1倍に拡大した。 

 <政府介入で発展が遅れた鉱工業>

 インド政府は1991年の経済改革まで、輸入代替工業化政策を推し進め、兵器・軍需品、原子力、鉄鋼、科学、重機、石炭、石油などの重化学工業を戦略的産業として国有化する一方、これらの産業を保護する目的で厳しい輸入規制措置を実施してきた。

 「この政策は重厚長大産業の発展を促すことに寄与したが、雇用創出には結びつかず、極端な産業保護によって効率性が低下し、国際競争力を低下させる結果となった」と黒岩氏は分析する。

 これら生産性の低い国有部門がGDPの3割弱を占めているうえ、国有企業では民営化後も企業人事や資産管理の面で政府が影響力を持つケースが多く、民営化効果が十分に発揮されていないのが実情だ。

 さらに、労働組合の抵抗から国有企業の完全民営化が難しい状況において、今後のインドの選択肢は「中国のように外資企業を積極的に誘致し、民間企業の発展をサポートすることで、経済における国有企業の相対的地位を低下させること」(黒岩氏)だという。

 <求められる外資導入を柱とした抜本策> 

 インド製造業の発展が様々な成長抑制因子に阻まれ穏やかなものにとどまる一方、IT産業はインド経済のけん引役として存在感を高めている。とはいえ、IT産業がGDPに占める比率は依然として5%にとどまっている。またIT産業の従業者は全雇用者の0.4%に過ぎない。

 インド中央統計機構によれば、1−3月期のGDP伸び率は前年比9.1%。2006/2007年度(06年4月−07年3月)のGDP成長率は前年度比9.4%となった。

 「IT産業は、インド経済を引き続きリードするだろうが、それだけでは11億人もの国民経済をテイクオフさせるには余りにも力不足。農村を中心とした低所得層の所得向上を目指すのであれば、改革解放後の中国のように、農場生活基盤の充実とともに、製造業を中心とする鉱工業の発展を促進することが必要だ」と黒岩氏は言う。

 中国経済が「世界の工場」として曲がり角に差し掛かっているなかで、インドに対する期待は高まっている。この期待に応えるには「東アジア経済を成功に導いてきた外資導入を柱とする輸出指向型の工業化政策へ本格的に踏み切ることができるか否かが大きなカギを握るだろう」と同氏は語る。

[東京 7日 ロイター]

(07/06/07 14:12)