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7月29日、自民党が参院選で改選前議席を大幅に失い、与党は過半数を大きく割り込む情勢。写真は自民党本部での安倍首相(右)(2007年 ロイター/Issei Kato)

参院選で与党が惨敗:識者はこうみる

 29日投開票の参院選は、年金記録問題や現職閣僚の不祥事などへの批判を背景に、自民党が改選前議席を大幅に失い、与党は過半数獲得に必要な64議席を割り込む情勢だ。安倍内閣発足後で初の全国規模の国政選挙は与党の惨敗となった。市場関係者などのコメントは以下の通り。

 ●明けは円売り、政局混迷が当面の円売り手がかりに

 <みずほコーポレート銀行 国際為替部シニアマーケットエコノミスト 福井真樹氏>

 与党にとって、事前に言われてきた中でも一番厳しい部類の選挙結果だ。政局の混迷、安倍政権の求心力低下などを嫌気する形で、週明けの為替市場は円安に振れて取引が始まると予想する。政局の混乱が続けば、日本の政治問題はしばらく、円相場の売り手がかりとなり続けるだろう。

 ただ、首相続投を自民党幹部など周辺が受け入れそうな雰囲気で、党役員人事・内閣改造を含め、今後はさまざまなシナリオがどう動いていくのかを見極める必要がある。参院選の結果のみで、大きく円を売り込むのは難しそうだ。日本株が売られることとなっても、海外投資家は常に円転して株を買っているのではないため、円安が大きく進む可能性は限定的だ。もちろん、日本の企業の力が損なわれる話でもない。

 外為市場ではサブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅融資)など、米国サイドの要因に大きな関心が集まっている。週末に発表された第2・四半期の米国内総生産(GDP)速報値は前期比年率プラス3.4%と事前予想を上回ったが、内容は消費が弱く外需や在庫投資頼みという、決していいものではなかった。投資家のリスク回避の動きが収まったとは感じられない。週初は円安に振れて取引が始まっても、ドルの戻りは抑えられるだろう。ドルは117円付近まで下値を見ておく必要がありそうだ。 

 ●海外勢が構造改革の否定と受け止める可能性も

 <SMBCフレンド証券株式ストラテジスト 中西文行氏>

 自民党大敗は株式市場にとってはネガティブだ。参院選とはいえ政権与党の大敗は印象が悪い。海外勢からは小泉前首相時代から続いている構造改革路線が否定されたと受け止められる可能性がある。日本国民が改革を望んでいないとすれば、歴史の逆行と判断されかねない。

 安倍首相は続投の意向を示しているようだが、秋の臨時国会以降は参院で民主党が主導権を握る。総選挙や総辞職に追い込まれる可能性が消えたとは言えない。中川幹事長が辞任すれば、日銀に対する圧力が弱まり、むしろ利上げはしやすい環境になる。このような選挙結果でも8月利上げは濃厚だろう。一段の円高もリスク要因とみなければならない。

 ●海外勢の日本株への見方は一段と慎重に

 <草野グローバルフロンティア代表取締役 草野豊己氏>

 自民党が大敗し安倍首相が続投するということは、政治の不透明感が長期化するということだ。海外勢も、参院選がすぐに政権交代に結びつくものではないことはわかっているが、法案は通りにくくなり、解散・総選挙などの不透明感がくすぶり続けることになる。参院選を通過しても悪材料出尽くしにはならず、日本株は織り込むべき新たなリスクを抱え込んだということだ。海外勢の日本株への見方は一段と慎重にならざるを得ない。

 それでなくても、サブプライム問題で海外株価は大きく調整している。海外勢はリスクに敏感になっており、ポジションの手仕舞いが進んでいる。また、欧米株価を押し上げてきたM&Aも、買収ファンドなどの資金調達難で急速にブレーキがかかっている。日本株は米国や欧州の株価が上がったことで、アセット・アロケーションの観点から買われてきたが、その海外株が下げてしまった。また、日本の企業業績も不透明感が強まっている。為替が円高基調に転じているほか、外需の中心であった米国需要が、サブプライム問題で落ちてきているためだ。日経平均は瞬間的には年初来安値近辺まで下げてもおかしくない。

 日銀の8月利上げシナリオもよくわからなくなってきた。ただ、海外中銀は、日銀に利上げしてほしいと考えているだろう。世界の中銀は現在の市場の混乱を、資産価格やリスクプレミアムの正常化の過程だと考えている。日本の低金利政策が、円キャリートレードを通じて世界の資産価格を押し上げてしまった側面もある。

 このため、米国では市場の混乱を受けて米利下げ期待も出てきているが、米金融当局が利下げに動くことはないだろう。原油価格の急騰もあって、当局は静観するとみている。市場は、資産価格の正常化に向けた長い道のりを歩み始めた。

 ●政権混乱という不安定要因にみられる可能性

 <第一生命経済研究所主席エコノミスト 嶌峰義清氏>

 過去の自民党大敗の経験則からすれば、橋本政権(退陣)のときの数を下回っているので、今後、安倍首相辞任の流れにならざるを得ない。負けを織り込んでいた株式市場にとってはアク抜け材料になりうるが、週末の米国市場が大きく下落して終わり地合いが悪い中、政権がしばらく混乱するという不安定要因としてみられる可能性が高い。週明けの国内株式市場は波乱含みになるかもしれず、警戒が必要だ。

 ●選挙結果は大変なこと、首相は自ら進退を決めるべき

 <野田毅・元自治相>

 今回の選挙結果を受けて、参院議長が民主党議員になったり、強行採決ができなくなることが予想される。法案が通りにくくなるなど、(安倍政権にとっては)大変なことになる。民主党の小沢一郎代表は、与党と協議などしないだろう。当然、(小沢氏は)衆院解散・総選挙を目標とするはずだ。

 安倍首相は自ら続投を表明しているが、首相自身が選挙戦で政権選択を訴えていたのだから、今回の結果を受けて自ら出処進退を決めるべきだ。

 安倍政権は地方や中小企業の支援策に関する政策に取り組んだが、有権者に受け入れられなかった。格差が深刻な農村部などは「小泉改革の続行」を標榜する安倍政権に共感を持てなかったのだろう。

 ●与党過半数割れは予想通り、日銀人事の承認に影響も

 <大和証券SMBC・シニアマーケットエコノミスト 岩下真理氏>

 与党の過半数割れは予想通り。あすの市場の一番の注目は安倍首相が辞任するかどうかになるだろう。ただ、それはすぐ判明するか分からない。従って今回の選挙結果は基本的に円債市場に影響はないと思う。すでに長期金利は1.8%を割れる水準まで低下しており、この材料だけで円債をさらに買い進むという人はいないだろう。株式・為替市場が大きく動かなければ、ほとんど影響は出ない見通し。

 ただ、週末に米株市場が下げ止まっていないので、週明けの日本株はおそらく大きく下げるだろう。そのため、選挙要因というよりは、サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)問題に関連して、まだ株式のリスクリダクション(リスク軽減)の動きが収まっておらず、円債市場に若干影響が出るとみている。

 今回の選挙結果は、日銀の第3次利上げの時期に大きく影響を与えることはないだろう。それより、第4次利上げの時期に影響が出る可能性があると思う。与党が参議院で過半数割れとなれば、次期総裁を含む今後の日銀人事の承認にも影響が出てくる可能性があるからだ。

 ●8月日銀会合に政治日程重ならない公算、米サブプライム問題見極め

 <東短リサーチ・チーフエコノミスト 加藤出氏>

 きょう投開票が行われた参院選では、現時点で与党の過半数割れが確実と伝えられたが、安倍首相が続投するのであれば、内閣改造もすぐではなく、スケジュール的には9月に入ってからと思われる。国内株式市場にとって今回の選挙結果は目先必ずしもプラスではないと思われ、今後の政局への関心を引きずる可能性があるが、8月の日銀の金融政策決定会合には政治イベントのスケジュールはかぶさらないだろう。

 8月に利上げがあるか否かは、国内の政治問題よりも米国のサブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン) の問題が実体経済に波及するか否かの方が材料としては大きいと思われる。

 ●与党惨敗は想定内、市場は米サブプライム問題の影響注視

 <UBS証券・債券本部チーフストラテジスト 道家映二氏>

 きょう投開票が行われた参院選では、与党が大きく過半数を割り込んだ。安倍晋三首相が辞任しないということであれば、今後の日程としては臨時国会が開かれ、9月上旬に内閣改造が行われるのだろう。議席数が過半数を割り込むので、政権運営は難しくなるという議論もあるが、年内は予算編成しか残っていない。与党は衆議院の3分の2を占めている上、予算案は衆院を通れば良いため、あまり政局の緊迫化にはつながらないと思われる。

 選挙結果が与える日本株への影響は限られそうだ。参院選での与党の苦戦は事前から想定されていたためだ。むしろ前週末の米国株の大幅な続落が材料としては大きい。米国でのサブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)の問題がどの程度響くか次第だが、今回の選挙結果で政権の求心力は弱くなるため、政治的には日銀は利上げに動きやすくなる面もあるとみられる。

 

[東京 29日 ロイター]

 (07/07/30 06:35)  





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