ファンタジー:個人タクシー「金遁雲」の冒険独白(8-1)

2007/07/30 21:00
 【大紀元日本7月30日】私はその日、外苑前のくだんの行きつけの柳麺屋「珍来軒」で、昼食を摂っていた。ここ珍来軒は、店内は小汚いが味がいいので、同業者には人気がある。日本で人気があるのは、「冷やし柳麺」なるものだ。もっと量が少なく廉価だとよっぽどありがたいのだが、日本人の作るものはこういった料理もまた細緻で美味だ。

 店内を見廻すと、夏の陽気が極まった昼下がりだけあって、客の皆が冷やし柳麺を啜り、冷やし水を口に運んでいる。しかし、数人は虫歯なのか、冷水を口に含むと沁みる様で顔をしかめている。しかし、どうして日本人はこうも虫歯が多いのだろうか?特に東京の広尾、青山といった都会の中心には、歯科の病院が雨後の筍のように乱立している。単に、日本人の特に女性が、チョコレートを好むといった単純な理由だけでないようだ。

 「よっ!中国の・・これ知ってるかい?」くだんの日の出タクシーの同業者がまた店内で声を掛けてきた。「・・知っていますよ。アメリカの飲み物でしょ。でも発している気が暗いですよ・・・体に良くないのでは?」「いやぁ、そうなんだ。俺は、アメリカに憧れた年代でね・・・こいつが大好きなんだ」といって一気に飲み干した。「ア!イタタタ・・・虫歯にしみる!」と渋面をつくる。

 「俺なんか、五十を過ぎたばかりなのに、もう奥歯は左も右もガタガタだよ!」と嘆く。

 そこに「ガタガタ!ピシピタ・・ドッシーン!」と妙なエンジン音を発し、外に見たことのある中古車が止まった。吾味先生のところのニッセン年代中古車だ。中から、例によってグレーの詰襟に身を固めた小森君が、額から滝のような汗をしたたらせながら、初老の紳士を伴ってきた。あっ、まただ。また例によって、真摯な日本の老先生が、画期的な発明か何かして業界筋に睨まれているに違いない。

 私は、小森君が店内に入ってくるなり、先手を打って「・・それで、この先生はどんな画期的な発明をなすったのですか?」と聞いてやった。すると小森君は目をパチクリして、「・・・さ、流石は張先生!こちらの、先生は、乾先生の旧来のお知り合いで、水田寅之助先生です・・流石だなぁ、やっぱりテレパシーがあるのかなぁ」などと脳天気に驚いている。「・・まあ、ムサクルシイ所で初対面も何ですが、力になれるようでしたら相談に乗りますよ」と相席を勧めた。外では、油蝉がけたたましく鳴いている。

 水田先生は、ポツリポツリと憔悴しきった様子で事の経緯を話し始めた。「・・・実は、私は元は地質学者でして・・世界各地の湧き水、天然の飲料水を調査して参りました。そして、オーストラリアの天然飲料水を調べている内に、ある事に気が付いたのです・・そして、ついに日本人を虫歯から解放できる『虎水』を完成させるところまでに至りました・・ところが、厚生省に許認可をもらうための届け出をした頃から、雲行きがあやしくなってきたのです・・・もう疲れました・・」と嘆息する。

 私は途端にこの先生に興味が湧き、「・・・ところで、水田先生。その虎水というものは、どういった代物なのですか?」と聞いてみた。「・・・成分構造は、実に単純です。きれいな天然水に、フッ素とカルシウムを至当量だけ配合して溶かしただけのものです・・・コストは非常に安価で、しかも歯には抜群にいい。これを飲料水として毎日 飲めば、たとえ甘いケーキやチョコレートを食べても虫歯になど滅多に罹りません。連鎖的には、恐らく眼鏡からも解放されるでしょう・・しかし・・」といって深刻な表情になった。それで莫大な利権が絡んだ輩に睨まれているのだ・・・。

 すると、まるで判で押したように、店の入り口にスーツ姿の黒社会の輩二人が、こちらを睨みつけツカツカと私たちの卓に近付いてきた。店の主人は慌てて、「・・あっと、そこのヤクザ屋さん!そこのサルみたいな人は、よした方がいいですよ!その人は、張さんと言ってね、なんでも気功の達人なんだ・・この前だって、店内は壊されるし、清掃は大変だったし・・」と諌める。無頼漢は、客の冷水を掴むとそれを店主の顔面にぶっ掛けた。「うるせぃ!」と凄むと、私の胸倉を掴みこう囁いた。「・・・中国のお猿さん。少し静かにしててくれないかな?・・そっちの爺さんにだけ、用があるんだ・・」。店内の客は、水を打ったように静かになった。

関連記事
注目記事
^