【ショートストーリー】強運の男

2007/11/29 01:00
 【大紀元日本11月29日】ある所に、もって生まれた心根の優しい強運の男がいた。どういう所が強運かというと、くじというくじ、賭けという賭け、当たらないものはないという様であった。

 男はまた、心優しい男でもあった。幼小の頃は公園に降りる小鳥たちに残飯の米をやり、小学校にあがってからは、なぜか「苛められっ子」を身を呈して庇う珍しいタイプでもあった。

 この男の強運を発見したのは、シングル・マザーの母親であった。若くして後家になった母親は、何の気なしに引かせた神社のおみくじが、すべて「大吉」であるのに驚いた。一計を案じた母親は、試しにこの子供に千円を持たせ、宝くじを買いに行かせた。案の定、そのくじは一等賞で、程無くして母親は若い男と行方を晦ましてしまった。

 こうして男は、幼くして天涯孤独の身となった。そして、教会の施設に預けられることになった。教会の神父は、男の顔を見るなり、「心配しなくともよい。なぜなら、貴方は聖なる使命を背負っているのだから」と満面の笑みで抱擁したが、何を思ったのかすぐに、「しかし.....」といって顔をしかめた。

 男は、施設のスタッフの愛情に支えられながら、中学を卒業すると、さっそくホテルのボーイとして働き始めた。男は、懸命に働いた・・貧乏が身についていたのもあるが施設に寄付がしたかったからだ。男は、懸命に働いて稼いだ薄給の一部を毎月施設に寄付し続ける一方、周囲の人の落ち度と失敗をすべて「自分の責任です」といって庇い続けたために、気が付くと数年後にはホテルの総支配人となっていた。

 社会的な成功を手に入れた男に、ある時、若くて奇麗な女性スタッフがこう耳打ちした。「総支配人は強運の人です。宝くじでも買ってみたらどうかしら?きっと当たると思いますよ」。男は、惜日の遠い日に、母親が家を出て行った記憶がかすかに脳裏をかすめたが、他に楽しみもなく、「どうせ気晴らしに・・」と宝くじを買ってみた。

 それが、見事に当たった。男は、億単位の金を手にすると、まるで人が変わってしまった。まず、残業を全くしなくなった。誰よりも早く会社に来て、誰よりも遅く帰る総支配人が、遅く来て早く帰るようになってしまった。そして、自分の判断ミスや管理ミスを部下のせいにするようになってしまった。これにより、有能な部下は次々と去り、会社の売り上げはみるみる下降した。

 男は、実は宝くじに当選した後、かの女性スタッフと密会を繰り返していた。「君は、勝利の女神だ・・・君がいれば、一生僕の人生は安泰だ・・」。このただならぬ関係が社内に知れ渡ると、苦楽を共にした腹心が会社を離れた。すると、会社は一気に赤字に転落した。すると女性スタッフは、「大丈夫、あなたは強運だから・・今度は競馬でもやってみたら・・・」。

 生来、真面目な男である。競馬新聞など見たこともなく、●やら△やら何のことだかサッパリ分らないのであるが、一目とても気になる部分があった。「・・・ラッキー・スリー・シックス・・デビル・フィメール・フリー・・・連勝複式で666倍か・・凄いな」。

 男は、この連勝複式に場外馬券場で一気に100万円を注ぎ込んだ。果たして1-2着の大当たり。男は一気に六億以上の大金を手にした。

 巨額の大金を手にした男は、さらに傲慢になってしまった。会社の赤字を粉飾決算でごまかしたのだ。男は、これが露見するとホテルのオーナーから退職を勧告された。

 「ふん・・・こちらから願い下げだ・・・こちとら生まれついての強運なんだ・・・」男は、うそぶいた。

 男の強運と快進撃は、その後も続いた。買う宝くじ、買う馬券はほとんど当たった。まさに向かう所敵なしの「神がかり」的なところがあった。

 男は、手にした大金で、あちこちにマンションを買い、数人の愛人を囲い、高級外車を乗り回し、夜遅くまで飲み歩き、全くの不労所得で奇跡的にこの世の春を謳歌していた。

 そんな下界の様子を天国の天使長は、さらに高みの上空からにがにがしく見ていた。「あの馬鹿!ルシフェル!!もう一度チャンスをくれというから、人間界での修行のチャンスを与えてやったのに!下界に降りたとたんに欲望で目がふさがり、やることをやっておらん!衆生済度はどうしたんじゃ!」。

 天使長は、慌ただしく身仕度を整えると、下界に降りて行った。

 男は、豪勢な毛皮を身に着け、左右にケバケバシイ女性の肩を抱き従えると繁華街からガード下までやってきた。「・・・旦那・・どうかお恵みを・・・」「ん?なんだ!?傷痍軍人か・・片腕片足を南方戦線で失っただと?今頃珍しいな・・・そりゃあんたが運が悪いからだ・・アバヨ!」男は、傷痍軍人を足蹴にするとそそくさと色街に消えて行った。これに化けていた天使長は悲しそうに静かに首を振った「・・・かなりの重症だ・・」。

 次に天使長は、教会の修道女に扮して男の前に現れた。「第三世界の子供たちに、ノートと鉛筆を・・病に苦しむ人たちにワクチンを・・」といって男の前に募金箱を差し出した。男は、何を思ったのか逆上し、修道女の募金箱を地面に叩き落とし、こう叫んだ。「この大馬鹿!俺だって、幼いときは貧しかったんだ・・それで必至に働いてここまで来たんだ・・豊かになりたかったら、自分で稼げ!」と啖呵を切って、来たハイヤーに乗って去って行った。天使長はまたしても嘆息した「・・・もうダメかもしれない・・」。

 天使長はさらに、これが最後のチャンスであると、今度は雪が降る夜遅くに少女に扮してマッチを売っていた。そこに、男が通りかかった。「おじさん・・・マッチを買って下さい・・これを売らないと、ご飯が食べられないの・・・」、「ウィ~~ヒック!マッチ売りの少女だってか~?・・お嬢ちゃんね、大きくなったらその身体を売りな!そうしたら幾らでも稼げるよ!」。天使長は怒りで身体の震えが止まらなかった。そして地声を出すと指さして怒鳴った。「もう終わりだルシェフェル!人間界でのミッションは中止だ!」。

 それから数日後、男は公園のベンチで朝早く凍死しているところを巡回中の警官によって発見された。天国の徳を浪費した挙句の変死であった。
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