THE EPOCH TIMES

[ショートストーリー] 億万長者の遺言

2008年01月23日 14時50分

 30年前、アメリカであるビジネスマンの妻がうっかり財布を病院でなくしてしまった。それを聞いたビジネスマンは、急いで病院にかけつけた。その財布には、10万ドルの現金が入っていたばかりか、重要な機密書類を挟んでいたからだ。

 ビジネスマンが病院に到着して、暗くなった廊下を見渡すと、一人の痩せた少女が脇に財布を抱え、壁にもたれかかって座っていた。ヒアーダというその貧しい少女は、すべてを売り払い、病気を患った母親を入院させるためにここへやってきたのだった。しかし、彼女が用意できたのはたった一晩だけ入院できるほどのお金しかなかった。高額な入院費用を払う事は難しく、明日の朝には母親と共に病院を出なければならなかった。

 その夜、お金もなく、どうすることもできないヒアーダは、ただ病院の廊下を行ったり来たりしていた。彼女は心から神に祈り、誰か優しい人が彼女の母親を助けてくれるようにとお願いした。すると、ヒアーダの前をひとりの女性が足早に通り過ぎ、財布を落として病院から出て行ったのが見えた。その場にいたのはヒアーダひとりで、他に誰もおらず、女性も財布を落としたことに気付いていないようだった。財布を拾ったヒアーダは急いで追いかけたが、すでにその女性は車に乗って行ってしまった。

 ヒアーダが母親の病室に戻って、財布を開けてみると、札束が見えた。彼女はとっさに、そのお金があれば母親の病気が治るだろうと考えた。しかし、母親はすぐにヒアーダに、廊下へ戻って財布の持ち主が戻ってくるのを待ちなさいと告げた。

 財布を拾ってくれたヒアーダに感謝したビジネスマンは、入院費用を気前よく支払ったが、残念なことに母親は亡くなった。ビジネスマンは、天涯孤独の身となった少女を養子にした。そして、このビジネスマンは親子のおかげで10万ドルをなくさなかっただけでなく、機密書類に書かれたビジネスを成功させ、巨万の富を得たのである。

 ビジネスマンに助けられたヒアーダは大学を卒業し、彼のビジネスを手伝うことになった。ビジネスマンは、特にヒアーダを何かのポジションにつかせることはなかったが、実際に様々な取引の場へヒアーダを連れて行くことで、ヒアーダは立派なビジネス・ウーマンへと成長していった。

 ビジネスマンは年をとり、経営に関する様々な問題について、ヒアーダに意見を求めることが多くなった。そして、ビジネスマンは次のような遺言状を書いた。

 「ヒアーダと彼女の母親を知る前、すでに私にはたくさんの財産があった。しかし、病弱でとても貧しい母親とヒアーダが、巨額の札束を拾っても自分のものにしなかったのを見て、実は私はとても貧しく、本当に裕福なのは彼女たちなのだと思い知らされた。彼女たちは人間として守るべき誇りを保ち、ビジネスマンの私に欠けているものを持っていた。私の稼ぎ方は、全て他との騙しあいや、巧妙なトリックばかりだった。人生で一番の財産は、人間のモラルだということを、彼女たちが教えてくれたのだ。ヒアーダを養子にしたのは、感謝の気持ちからでもなく、同情したからでもない。それは、まさに彼女が人間として正しい生き方をしていたからだ。

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