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【文化論エッセイ】感謝の心

文:武蔵

 【大紀元日本4月25日】かつての日本には、江戸時代まで「講」なるものが存在していた。すなわち、「富士講」「御岳講」などの名山にかかわる山岳信仰としての「神おろし」によるご宣託の民間信仰だ。これは、現在でもその名残りをとどめて、むしろ伝統文化として過去の遺物としてしかうかがい知ることのできないものだが、それらは明治時代の近代化以降に日本の社会自体が西欧化するに従って、沖縄と北海道のアイヌを除き、本土では徐々にその姿を消していった。

 その起源を「卑弥呼」までさかのぼることができる、こういった日本の「オリジナル信仰」が廃れてしまった主な原因は、巫女の育成に厳しい条件がつけられていて、基本的には「処女」でなくてはいけないとか、それに加えて修行自体が厳しく、若い女性の希望者がついていけないというのが実情であったようだ。

 こうした本来は山にあった「講」が、明治以降は里の街中に降りてきて、さまざまな教派教団なるものが発生してくるわけであるが、それぞれの基本的な教典がどうであるとかという詳細な内容は割愛するとしても、それぞれに非常に共通しているものが一目に発見できるだろう。それは、繰り返し「ありがとうございます」と感謝の心の重要性について説いているところだ。要するに、感謝すればするほど自分の人生と世の中自体がありがたいものになっていくという、実にシンプルな「教え」なのだ。

 現代の平成日本には、「明治」「大正」「昭和」「平成」の四世代が同居しているが、この中で明治生まれの方は100歳以上になろうとしており、生存しておられる方の数もだんだんと少なくなってきている。しかし、身の回りにそういった方がおられたら、よ~く観察してみてほしい。必ずや、まず「始末」を徹底して物を大切にし、「誰々の御蔭」「仏様のおかげ」「神様のおかげ」などとぶつぶつと言っておられるはずだ。この世代の日本人は「天・地・人」にもっとも素直に感謝できる伝統的な人たちだろう。

 米国は「世界一の強国」「世界一豊かな国」と聞き及んで、私は数年前に何度か米国を訪問したことがある。訪問した土地は、西海岸のロス・アンジェルスと東海岸のニューヨークであったが、現地の米国人の会話の様子を耳を澄まして聞いていると、彼らが頻繁にまず「サンキュー」と言っているのに気がついた。ついで多かったのが、「エクスキューズ・ミー」「アイム・ソーリー」といった謝罪の言葉だ。「あれ?本当だ。感謝の心が厚い人たちは、本当に豊かな人たちだ…そういえば、欧州の人たちもメルシーだのダンケだのとよく言っているなぁ」と思ったのを覚えている。

 反対にインドを訪問した際には、IT産業の目覚しい発展で世界から注目されている新興工業国だといっても、一歩裏手に入ると「バクシーシ」の洗礼を受けるのみで、貧窮目も当てられないほどで、ついに滞在した三週間、一度も「感謝」の言葉を聞くことはなかった。何のことはない、その国の経済的な足腰を見ようと思えば、一般庶民の日常会話でどれだけの頻度で「ありがとうございます」が言えているかを見ればいいのではなかろうか。

 日本ではどうなのであろうか?やはり古い世代が社会の一線から退くにつれて、残念ながら少しずつ感謝の心が薄れていっているようだ。資本主義社会なので、物が豊かになればなるほど、さらに物欲が亢進して始末をしなくなって物に感謝しなくなるし、また「オウムショック」などの宗教的な腐敗で天に対する畏敬の気持ちも半減した。しかし、反対正面の「どうもすみませんでした」などの謝罪の言葉は、まだまだ日常よく聞かれるので、伝統的な精神は約半分はまだまだ生きているといっていいのではなかろうか。 

 広くこの極東地区を見てみると、どうなのであろうか?隣国にあたる朝鮮半島には脱北者の問題があり、南の韓国入りした脱北者の数は、すでに一万人以上になったそうだが、これがまた南で社会への適応能力を欠き、深刻な社会問題となっているというのである。なぜ、同じ朝鮮民族であるのに北の人たちは、南の人たちに受け入れられないのであろうか? 

 それは北の人たちが、南の脱北者定着支援施設「ハナ・ウォン」などで公的資金を注入されても、社会自立支援などの恩恵を受けても、また韓国社会から個人的によくされても、「コマップスニダ」「カムサムニダ」などの感謝の言葉が素直に口をついて出てこないからだ。これには南の人たちは、生来の気性の激しさも手伝って、カンカンになって怒っているのだ。

 こういった脱北者たちは、当然民主社会とは違った教育を受けている。自国で共産教育を受けたために、「絶対平等主義」だからやってもらえるのは当たり前で感謝はする必要はないのだし、「無神論」「唯物主義」だから天に感謝するということもなく、「あの世」もないのだから「先祖の御蔭」でもなく、ましてやもはや他人に感謝する向きがあるのだろうかといった意識構造なのだ。そして、結局は貧しいのが現状だ。

 現在、世界では「赤い帝国」中共が主催する北京五輪のトーチリレーを巡って、世界中でチベット問題を主な焦点に抗議行動が繰り返されているが、北京当局の武装警察によるチベットの弾圧という表面的な現象をさて置いて、北京当局と中国人自体の意識構造をみるとき、宗教を弾圧しては「天につばを吐いてこれを認めず」、人権を抑圧しては「世界を敵に回し」、中原に一党独裁を貫いては「自らの非を認めず」というのが現状ではないのか。

 もし中国人13億人が、金科玉条の「絶対平均主義」「唯物主義」「無神論」を捨てて、「天・地・人」に感謝し始めたとき、すなわち地球上の人口の約25%が意識を180度転換し始めたとき、地球は本当に豊かな時代を迎えるだろう。それは、国連の食糧支援がどうだとか、世界銀行の貸付金がどうだとか、ドルの外貨レートがどうだとかいった「人の経済理論」の次元ではなく、「神の経済理論」の次元を代表するものになることであろう。

 (08/04/25 00:00)  





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