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【ショートストーリー】無敗の達人

文:文雀

 【大紀元日本1月18日】戦国時代の末期、何でも真剣勝負で60回立ち会って一度も敗れることがなかった無敗の達人がいたという。噂では、その男は夢想斎と名乗り、夢想無念流の使い手だという。

 「それにしても気になる」、この流言を聞いて心中穏やかならぬ者がいた。ニ天一流の宮本武蔵その人である。この戦国では、自分の剣以外に実践に強かろう剣などあるはずもない、との自負もあった。

 「これは一度手合わせをして、雌雄を決せねばなるまい」。武蔵の願いは、意外なほど早く実現した。京都の茶屋で、夢想斎と名乗る男に出会ったのだ。それは、着流しに脇差を差した白面の浪人であった。

 「いいですよ」、この浪人は武蔵の挑戦状をいともあっさりと懐にしまうと何もなかったかのように色町に消えていった。

 武蔵は、佐々木小次郎を討ったゲンのいい巌流島を夢想斎との決戦場に選んだ。なにやら「ツバメ返し」のような必殺技を持つものやも知れぬ。武蔵は、またくだんの通り、定刻をはずして遅れてやってきた。

 しかし、武蔵がいくら待てど暮らせど無想斎はやってこない。ついに日が暮れてしまった。すると、夕日の向こうから一艘の小船がやってきた。

 船頭が何やら書状を持っている。「古の兵法に曰く、敵を知り己を知らば 百戦危うからず…(中略)…よって三十六計、逃げるに如かずと心得たり。」、武蔵は大笑して天を仰ぎ小船に乗り込んだ。

 (09/01/18 00:00)