アングル:燃えるアマゾンの森、命の糧を失う先住民

2019/09/10
更新: 2019/09/10

Fabio Teixeira

[テンハリム先住民居住区(ブラジル) 4日 トムソン・ロイター財団] – パキリ村の副村長は、村にとって来年は苦難の時になると覚悟している。アマゾンの森林を襲う火災が、村人たちの食料や医薬品、生計基盤を焼き尽くしているからだ。

デウスディマル・テンハリム副村長は、村民たちが狩猟採集の場としている保護対象地域のうち、約6万ヘクタールが焼失したとみている。しかも、まだ鎮火していない。

「村の消防団では対処できない。ブラジルナッツを採っている木も失われた」と、副村長は言う。ブラジルナッツは近隣の町に売ったり、儀式や医薬品にも使われていると話す。

「我々にとっては神聖なものだ。だが、来年の2020年、ジャングルでブラジルナッツを見つけるのが今より難しくなるのは間違いない」

<アマゾン熱帯雨林の役割>

ブラジルの国立宇宙研究所(INPE)は8月、アマゾン川流域の火災件数が2010年以来で最多を記録したと発表した。

国際社会からは、世界最大の熱帯雨林であるアマゾンを伐採などの脅威から保護する措置を強化するよう、ブラジルに求める声が高まった。

アマゾンの森林は地球温暖化を食い止める鍵と科学者たちは見ており、アマゾンから発生する水蒸気が、南米の広範囲にわたる農業に不可欠な降雨をもたらしている。

アマゾナス州にあるテンハリム先住民居住区は、中規模の2つの町に挟まれている。合計180万ヘクタールの土地に、先住民の複数の部族が暮らしている。

パキリ村のデウスディマル副村長は、彼の部族を脅かす火災は人為的なものだと確信している。自らも消防団の訓練を受けている副村長は、出火した地点などから判断すれば、火災が自然発生したものかどうかすぐに分かるという。

「完全に、(人間の)欲望によるものだ」と、彼は言う。農地開拓のために農民が森林に火を放ち、「我々は直接、間接に傷つけられている」と、デウスディマル副村長は語る。

焼失している資源はブラジルナッツだけではない。

居住民の健康面の面倒をみているライムンディンハ・テンハリム氏は、人々が病気になったときに使う薬草や植物の根が見つからなくなるのではないかと憂慮している。彼らには、それ以外の治療手段がほとんどない。

居住区内の村々から大きな街へ向かう交通手段は、最も近い幹線道路を1日1回通過するバスぐらいである。そのため、ほとんどの病気や怪我は、森林に生える薬草を使った民間療法で治療されている。その森林が燃えていると、ライムンディンハ氏は言う。

火災が広がってからといもの、彼女は保存してあった生薬を使って治療に当たっている。火災による煙を吸ってしまった先住民の子どもたちの治療もその1つだ。

「(森には)咳の薬もあるし、外傷のための薬も何でもある」と、彼女は言う。「それがなくなったら、どうしていいか分からない」

<火をもって火を制す>

テンハリム先住民居住区で発生している火災は、住民以外の人間が引き起こしたものとしては今年初めてだ。実は、すでに先住民自身が意図的に火災を起こしている。

テンハリム部族には、ブラジル環境・再生可能天然資源院(Ibama)のために働く消防団員がいる。彼らは5月から6月にかけ、初めて森の一部に火を放った。近づく乾季の間、火災のリスクを減らすためだ。

部族にとって不可欠な動物や食料を育んでいる場所の周囲を更地にするため、火の勢いをコントロールして火事を起こしたという。「あの作業をやっていなければ、火災ははるかにひどい状況になっていただろう」と、消防団員の1人は記者に語った。だが、炎から守られた面積は限られているという。

現在、約30人の消防団員が森林火災の消火を手伝っているが、活動はもっぱら夜間である。「日中は風が強すぎて無理だ」と、団員の1人は言う。

<焼失した森を嘆く歌>

ブラジルの7州を貫く全長4000キロのトランス・アマゾニアン・ハイウェイの沿道は、火災の爪痕が今も生々しい。

先住民の人々は、ブラジルの環境保護当局が弱体化したのは右派のボルソナロ大統領の責任だと言う。

野党・社会主義自由党がロイターに見せた政府の内部資料によれば、大統領の就任以来、政府全体の歳出削減の一環として、Ibamaの予算は4分の1がカットされた。

その1つが、森林火災の予防・抑制のための予算だ。データによれば、23%削減されている。

相次ぐ火災に国際的な批判が高まり、ボルソナロ大統領は消火活動に軍を派遣することを認めた。火の勢いは弱まりつつある。

トランス・アマゾニアン・ハイウェイのうち、テンハリム先住民の居住区を通過する区間では、放水する飛行機用の燃料を運ぶ軍用車両やトラックが日常的に見られるようになった。

居住区で暮らす部族の代表者、マルシオ・テンハリム氏は、住民が受けたダメージを世界に知ってほしいと願っている。ひたすら嘆き悲しむしかない、と同氏は言う。

「儀式を行い、森が燃えた悲しみを歌う」

(翻訳:エァクレーレン)

Reuters
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