<書評>F.T記者の目に映る『中国共産党の秘密世界』

2010/08/01
更新: 2010/08/01

【大紀元日本8月1日】中国共産党とは、中国の国民にとって一体何なのだろうか。民主国家の人々が理解するにあたって、少し想像力を働かせてほしい。

「見えないし触れることもできないが、至る所にその存在感が感じられる」とは、ある中国に熟知する人のコメント。

中国共産党は中国社会の全ての領域でリードしている。この点は中国の国民にとってごく自然のことであるが、中国を繁栄した市場経済の国と見ている欧米人にとっては意外なことに映るようだ。

中国人の常識、外国人の非常識。外国人の目から見た中国共産党の真の世界を紹介した一冊が最近、ニューヨークに本部を置くハーバーコリンズ出版により発行された。『The Party: The Secret World of China’s Communist Rulers』(中国共産党:共産党支配者の秘密の世界)と題する著書で、知識人の間で話題になっている。

著者リチャード・マグレガー氏(Richard McGregor)はオーストラリア出身で、英紙フィナンシャル・タイムズのレポーター。同紙の中国支局長を務め、20年近くにわたってアジア北部に駐在した。現在はロンドン在住。

中国の改革開放政策以来、欧米国家の中国専門家や記者らが書いた中国に関する著書は、数えきれない。過去30年来、中国の政治、経済、社会現象、中国が国際世界で演じている役割の変化など、様々な角度から分析してきた。

しかし、「すべてをリードする党、全ての核心である党」が今でも中国にある現実について触れる人は稀である。中国共産党が中国の巨大な変化の中で演じた役割も、国際社会の人々にとっては理解し難いことであろう。今回、マグレガー氏の著書がその難解な謎の答えを明示してくれたといえる。

中国共産党と中国政府との関係、党と企業との関係、党と中央人事部(組織部)との関係、党と軍隊との関係、中央と地方との関係、党と中国の歴史との関係、党と資本家との関係...等々、著者の語り口や取材を受けた人たちのコメントによって、中国社会とその体制に隠された多くのコンフリクト(対立)が読者の前で展開されていく。

例えば、中国国営企業の社長は、誰に任命されるのだろうか。もちろん「共産党中央組織部」だ。ニューヨークやロンドン市場に上場する中国大手の企業トップが、国際的な大手企業の株主となれるかどうかは、党内や政府での出世と直接関連する。

もうひとつは、共産主義とはなにか。その定義は中国共産党のメンバーによって解釈される。海外市場に上場する中国国有銀行の実権を握るトップは、共産党委員会である。これらの国有銀行の権力者は、株主の利益を最大に実現させることが、共産主義理念の最善の実践手段とみなしている。

また、共産党の党員になる動機は、イデオロギーの信仰や理念とは無関係。共産主義理念を裏切り、中国社会をすっかり拝金主義に変身させたものの、それでも共産党の名を維持しているのは、サバイバルのためだけである。

カメレオンのように環境に合わせて色を変えていく利権主義の中国共産党は、不死鳥のように再生できるのだろうか。この著書で呈示されているように、腐敗を生み出す体制が腐敗を抑制することは、自分の髪を引っ張って空に飛ぼうとするようなもので、不可能であろう。

著者自らによる同著の紹介記事(ザ・ハフィントン・ポスト=The Huffington Post)では、現代中国を米国に喩えて説明している。

「米国で一つの団体が、米国の内閣全て、州知事と代理、主要都市の市長、各規制機関の責任者、最高裁判所の裁判官の使命を監督することを想像して欲しい。さらに、 ゼネラル・エレクトリック、ウォルマート、エクソンモービル、その他、米国最大50社の最高経営責任者の指名も、同団体が認可するということを仮想して欲しい。そして、この団体は、『中央組織部』と呼ばれる」

この中央組織部が、現代中国を実質的に管理する団体だ。実際の「中国共産党中央組織部」は、上記の描写をはるかに超えている。最大都市から遠方のチベットや新疆の小さな村に至るまでの行政を細かく管轄する。党の認めた宗教、メディア、軍隊を掌握する。

この 団体は、北京の天安門広場から車で数分の近代的なオフィス街で、看板も出さずに存在している。なんとも不気味だ。著者は何度も取材を申し込んだが、梨のつぶてだったという。中央組織部は極めて機密性の高い団体で、法律には敵意を抱き、内部裁定以外は誰に対しても何に対しても責任を負わない。開放性の顕著な米国の政府に対して、この機密性は現在のところ、かなり優位に働いていると著者は紹介記事で指摘している。

グルーバルに台頭する中国。現代人が無視することのできない存在となりつつあるこの大国の頭脳部を細かく視察した画期的な一冊である。

(編集・鶴田)
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