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アンデルセン童話集『雪の女王』

【本との話】ねえ、皆さん「幸せって」何ですか?

 【大紀元日本11月13日】

 耳の奥深くで打ち寄せる生命の記憶の一節が、揺り篭の中で作られた物語であるとしたら・・・それは今も忘れずに、耳が覚えている幸せに違いありませんね。

 『マッチ売りの少女』や『みにくいあひるの子』を創作した童話作家・アンデルセンは、独身の生涯(70年)を終えています。

 北欧ユトランド半島の国・デンマークのフュン島(誕生地)を出奔して、青春期に遍歴したイタリア半島体験がアンデルセンの創作童話のインスピレーションの源泉でした。アンデルセンにとってイタリア半島との出会いこそが、幼少期の孤独な魂を癒す初恋であったかのようです。

 アンデルセン童話の中でもとりわけ半島という岬に打ち寄せ、一瞬に咲き消える波頭の白い花しぶきを、雪のひとひらに結晶化したメルヘンが『雪の女王』でした。南国イタリアの光に照らし出される、北欧デンマークの雪景色が綾なす物語なのです。

 「さあ、お話をはじめますよ。耳を澄まして聞かないといけません」・・・『雪の女王』7つの話からできている物語の出だしです。

 善と悪をさかさまに映す不吉な鏡を、悪魔学校の校長先生が発明します。美しいものや善良なものを映すとみにくいものに変わり、どんどん縮んで何も見えなくなってしまうのです。反対に醜いものはさらにくっきりと、拡大されて映し出されました。

 世の中の人間のほんとうの姿を映し出すことができると、悪魔たちはこの奇妙な鏡の発明に小躍りします。この鏡で天上の神々や天使を映し出したら、どんなに楽しいことだろうと思いつきました。するとどうでしょう! 天高く駆け上る悪魔たちの手から鏡がするりと滑り落ちて砕け散り、破片が世界中にばら撒かれてしまったのです。

 さあ大変なことが起こります。雪の女王がマントを広げた冬のある日のことです。その破片のひとひらが雪となって、カイという少年の目の中から心臓へと落ちてゆきました。そして春が過ぎ夏になっても心臓に凍りついた鏡の破片は、溶けずに消え残ったままでした。

 雪の女王の世界に閉じ込められたカイを救出するため、幼友達だった心の美しい少女ゲルダがたった一人で立ち向かいます。雪の女王との闘いを決したのは、ゲルダの陽光のように燃える幼心の温かさでした。カイの心を冬のように凍りつかせていた鏡の破片を溶かします。

 生まれたままの傷つきやすい二人の幼心は、ファンタジーの冒険を乗り越えることによって、悪魔の鏡に妨害されない幼心へと成長したのです。傷つかないイノセンス=無垢な心を人類の未来に手渡すこと・・・、それは原罪以前の人類の幼心の、アンデルセン童話による再創造に他なりませんでした。

 (そら)


 (09/11/13 05:00)  





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