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とにもかくにも乗車券がなければ(China Photos/Getty Images)

なぜ僕はダフ屋に感謝したのか

作者・狄馬

 【大紀元日本2月12日】中国のお正月(春節)、皆が生まれ故郷に帰るこの時期、当然ながら列車の切符は簡単に手に入るものではない。僕より顔の広い友人に頼んでみたものの、既に半月前には売り切れたという。「ダフ屋に頼もうか。正規の値段(筆者の場合は90元、約1200円)に30元(約400円)を足せば買える」と友人に勧められた。むろん迷う余地はなかった。違法とされる町のダフ屋は意外と有名だった。友人はその1人に電話をすると、30分もしないうちにその人がやってきた。僕たちのことを覆面の警官ではないかと緊張した面持ちで周りを窺ったが、「プロの目」ですぐに安全だとわかったようだ。「本物の切符だな」と僕が念を押すと、「俺たちにとってこれが商売なんだ。信用がなくっちゃとてもできない」といった。切符を確認したら、本物のようだった。悩んでも苦労しても手に入らなかった切符は、いとも簡単に僕のものとなった。「ありがとう。おかげで実家に帰れる」と僕は心から感謝の気持ちが湧いた。「ダフ屋が悪いというけど、ダフ屋のおかげで、簡単に切符が買えるじゃないか」と友人にもぽろりと一言、言ってしまった。

 でもちょっと待ってよ。この考えはおかしい。そもそも切符入手の難しさの原因は彼らダフ屋と鉄道会社の切符販売員の癒着によるものではないか。鉄道会社の人が切符の一部、時には全部をダフ屋に正規の値段で「横流し」し、ダフ屋が多額の利益を上乗せして売りさばく。得た利益はダフ屋と鉄道会社の人との間で山分けする。彼らの癒着がなければ、切符が大量にダフ屋に流れ込むこともなく、僕も窓口で安い値段で切符が買えたはずだった。

 なのに僕が思わず喜んだ理由は何なのか。ダフ屋から切符を買うには、2つの要素が必要である。1つ目はダフ屋との連絡手段がわかる人。2つ目は要求された上乗せ金額を払うことができる人。つまり、情報と金を持つ一部の人しか、ダフ屋から切符が買えないのだ。自分が余計にお金を取られたにも関わらず、その「一部」になれたこと、2つの条件を持ち合わせたことで、「帰省できない」というもっとも悲惨な目に遭わずに、僕は密かに喜び、そして、僕に多大な迷惑を掛けたダフ屋に感謝するのだった。

 僕の脳裏に「ストックホルム症候群」という言葉が浮かんだ。被害者が犯人に同情や好意等の特別な依存する感情を抱くことを指すこの症状は今の僕にはぴったりだ。自分の利益が占有され、支配されながらも、支配者からの僅かな「恩恵」に感謝する。切符のダフ屋はたいしたことはない、それに比べ、国の支配者が土地、住居、交通、通信、エネルギー、生活に必要なすべてを自分たちの身内には安い金額で「横流し」し、支配権を与え、その親族らはさらに我々庶民に対し高額で転売し、利益を搾取する、この巨大なダフ屋構図のほうがよほど恐ろしいではないか。巨大な利益の行方も自ずとわかる。一方、我々は持つべき利益が損なわれたにも関わらず、もっと不幸な人、その人たちの不幸な境遇を見て、自分はなんて幸せなものかと優越感さえ覚え、そして支配者に感謝するのだ。

 魯迅(ろじん)の言葉を思い出した。「我々は奴隷にいとも簡単になれる。しかも、なってからも大喜びする」(『灯下漫筆』より)。僕は冬の冷たい風に震えながら、とてつもなく巨大なダフ屋に支配されていることにさらに戦慄を覚えた。

(翻訳編集・心明)


 (10/02/12 05:00)  





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