焦点:北朝鮮、米朝会談前にベテラン排除 交渉チーム刷新の訳

2019/02/23
更新: 2019/02/23

[ソウル 20日 ロイター] – 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、トランプ米大統領との2回目の首脳会談を前に、ベテラン外交官を政策決定プロセスから排除しつつある。

最近になって長らく職務に携わっていた何人かの外交官が亡命したり、スパイの疑いが浮上したことで、不信感を強めているためだ。韓国の当局者や専門家がこうした見方を示した。

正恩氏は、父や祖父の代から働いてきた多くの外交官を更迭し、その代わりにより若手のアドバイザーを起用している。とりわけ最も重大な人事は、これまであまり名前が知られていなかった金革哲(キム・ヒョクチョル)氏を米国との事務レベル交渉を取り仕切る国務委員会対米政策特別代表に抜てきし、米国側の窓口役のビーガン国務省北朝鮮政策特別代表のカウンターパートにしたことだ。

ある韓国政府の高官によると、キム・ヒョクチョル氏は以前、駐スペイン大使だったが北朝鮮による一連の核・ミサイル実験で2017年に国外退去処分となり、その後は正恩氏がトップに座る国務委員会で働いていた。

昨年6月のシンガポールでの第1回の米朝首脳会談まで、交渉を主導してきた崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官の役割を、キム・ヒョクチョル氏が担う形になっている。

先の韓国政府高官は「(北朝鮮では)多くの外交官は存在が無視されている。国内ではし烈な足の引っ張り合いが起こり、彼らがより豊かな資本主義国の暮らしを経験したことから、イデオロギーの面での忠実さが疑われている。キム・ヒョクチョル氏もキャリア外交官ではあるが、忠誠心の試験に合格して対米交渉のキーマンになれたようだ」と話した。

<粛清>

キム・ヒョクチョル氏の「出世」は、2016年の太永浩(テ・ヨンホ)駐英公使の亡命や、昨年11月の駐イタリア大使代理行方不明事件が、ある程度影響している。

2人の関係者がロイターに語ったところでは、昨年初めまで外務次官として対米外交を任されていた韓成烈(ハン・ソンリョル)氏が米国のスパイとして粛清されたことも、正恩氏のベテラン外交官への不信感を増幅させた。ハン・ソンリョル氏は米国で最も有名かつ敬意を持たれていた北朝鮮外交官の1人だったが、過去1年間は公式の場に一切姿を見せておらず、国営メディアの言及があったのは昨年2月が最後だ。

韓国統一省は、先月公表した2019年版の北朝鮮主要人名録からハン氏の名前を削除している。

米シンクタンクのスティムソン・センターで北朝鮮首脳部の動向を専門に研究するマイケル・マドン氏は、2人の関係者からハン氏がスパイ容疑で訴追され、昨年7月に姿を消したという話を聞いたと明かした。亡命したテ・ヨンホ氏は、ハン氏は強制収容所に送られた公算が大きく、場合によっては既に処刑された可能性があるとみている。

<くさび>

韓国の北朝鮮人権団体、北朝鮮センターが亡命したエリート20人からの聞き取りに基づいて発表した報告書によると、正恩氏が権力を握った2011年以降に処刑された人物は70人を超える。

テ氏は、正恩政権の下で少なくとも10人の外交官が殺害され、若くて忠誠心の強い人々が新たに職務に就いたと指摘した。

一方で他の多くの外交官は主要な仕事から遠ざけられている。テ氏の見立てでは、正恩氏による対米外交への異例の若手投入は、気ままなトランプ氏と北朝鮮の非核化宣言に懐疑的な米国の事務方の間にくさびを打ち込む狙いがある。

テ氏は「北朝鮮の外交は前例のない戦術を採用しており、これはトランプ氏を標的に策定されている。キム・ヒョクチョル氏を抜てきすることで、正恩氏はヒョクチョル氏こそが自身と直接つながっていると印象づけ、トランプ氏が米国の事務方の意見に耳を貸さずヒョクチョル氏と話し合おうとすることを狙っている」と説明した。

(Hyonhee Shin記者)

Reuters
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