THE EPOCH TIMES

【呉校長先生の随筆】 ーハネムーンのプレゼントー

2011年02月15日 07時00分
 【大紀元日本2月15日】8年間勤めていた崙背中学校での最も忘れられない思い出は、1300人の生徒たちが私にくれた「ハネムーンのプレゼント」でした。それは、校長になって2週間目のことでした。

 校長としての初仕事の日、私の車は校門の手前約200メートルのところで停められました。きらびやかなユニフォームを身にまとった100人の楽団を先頭に、この地区の名士や学校の先生たちが私を迎えてくれました。沿道の生徒たちが盛大な拍手を送る様子はまるで国賓を迎えているようで、私もついついその雰囲気に酔いしれてしまいました。

 その時、会長からは未解決の問題事項を次々と聞かされました。「学校の工事を請け負った会社が夜逃げをしたため、工事は未完成で一部欠陥もあります。このまま校舎を使用することは規定外ですので、校長先生の努力が必要となります。また、生徒らの補導問題も…」。すると、急に周りの賑やかな音楽や拍手の音が遠ざかり、私は足が浮いたような、なんとも落ち着かない気持ちになりました。

 着任してから、私は学校の校務状況を把握し、この地区の名士や関係者たちを訪問するなど多忙な1週間を過ごしました。翌週の朝礼の時、学務主任の李先生は全校生徒に対して、「わが校のギネス記録が破られたようです。昨日の午後、校内で一度に5台の自転車が盗まれました」とアナウンスしました。生徒が集まった広場は騒然となり、私もそれを聞いて大変驚きました。

 主任は続いて、「補導」が専門である校長先生の力をお借りしたいと言って、私にバトンタッチしました。私は内心、「警察の仕事はやったことがないのに…」とぼやきましたが、考えているうちにアイディアが浮かび、それを実行することにしました。

 私は全校生徒を学校の講堂に集めました。2千以上の目が不安そうに私を見つめる中で、私はマイクに向かって、「明日午前9時までに、学校側は無くなった自転車を全部見つけ出します」と宣言しました。多くの教師たちは、私にそれは不可能だと伝えようとしました。

 私は一息置いてからさらに声を高くして、「明日の午前6時30分、私と主任は正門で皆さんを迎えます。全校生徒は、私の前を通る時に必ず両目で私の目をじっと見つめるようにして通ってください。そして、全員、両手を自分の左ひざに当ててください。そうです。左ひざです。よく聞いてください。もし、あなたが他の人の自転車を取ったのであれば、明日、私の前を通る時に、左ひざが非常に痛くなります。非常に痛くなります…。歩けなくなるほど痛くなります。その時は、私と主任が肩を貸します」と2回繰り返してアナウンスしました。そして、全員が聞き取れたことを確認してから解散しました。

 翌朝、私たちは笑顔で、校門の前で生徒たちを迎えました。生徒たちも私の指示通りに校門を通過しました。あどけない顔をした生徒たちが大きな声で、「校長先生、私の膝は痛くありません」「僕は他人の自転車を取っていません。見て下さい、歩けますよ」と言って通り過ぎました。私は「分かっています。分かっていますよ」と返事をしました。結局、膝が痛くなった生徒は誰もいませんでした。

 以前から知っている張先生は私のところに来て「気になさらないでください。他にもいろいろな方法を試してみればよいのです」と慰めてくれました。話している間に、5人の先生が20数人の生徒を連れて来ました。一部の生徒は膝が痛くなるのを恐れて、正門を避け、塀を乗り越えて学校に入っていました。その後、最終的に20人の生徒が会議室に連れて来られました。

 会議室の凍りついたような雰囲気をなんとか和らげようとしながら、私は話し始めました。「一部の生徒は膝が痛くなり、見つかるのが嫌で正門を避けました。もちろん、膝が痛くなったとしても、必ずしも他の人の自転車を取ったからではありません。また、自発的に自分が何をしたかを教えたい人で、膝が痛くなることもあります」。私は真摯な態度でそれぞれの生徒を一通り見まわして、「自転車がいつも無くなることで、クラスメート同士の不信感が生じています。今回自転車を取った人も、かつては自分の自転車を無くしたことがあるのかも知れませんし…」と子どもたちの立場に立って話をすると、何人かの生徒が頷いていました。

 「皆で一緒に、この状況を変えませんか?どうですか?学校の自転車置き場の管理が行き届かなかったので、自分の自転車も以前無くなったことがあったのではないでしょうか?ここで最も重要なのは、本当のことを話したからといって処罰されることはないということです」と自転車の盗難事件の責任は子どもたちだけでなく、学校側にもあるように話しました。

 処罰されないという「保証」を強調したことが、功を奏しました。12人の生徒が手をあげました。そして、5台の自転車は12人が勝手に乗り回したことが分かりました。同日の午後、張先生のクラスの生徒たちは、夏休みに他の人の自転車を取った疑いのある生徒を連れてきました。

 「13名です。この件は終了してもよろしいですね」と張先生が私の様子をうかがいました。私は手で挨拶をして、お礼を言いました。そして「もうハネムーンは終わりにしましょう」とつぶやきました。

 ※呉雁門(ウー・イェンメン)

 呉氏は2004年8月~2010年8月までの6年間、台湾雲林県口湖中学校の第12代校長を務めた。同校歴代校長の中で最も長い任期。教育熱心で思いやりのある呉校長とこどもたちとの間に、たくさんの心温まるエピソードが生まれた。

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