THE EPOCH TIMES

【呉校長先生の随筆】 ー最優秀女優賞ー

2011年03月01日 07時00分
 【大紀元日本3月1日】漁村で育った春(しゅん)ちゃんは、とても恥ずかしがり屋です。少し劣等感を感じているのか、大勢の中で歩くと緊張のあまりつまずいて転んだり、両手と体が震えたりすることがよくありました。中学に入学してから、彼女はこのクセに悩んでいました。

 私のオフィスが彼女のクラスに近いこともあって、春ちゃんは校長室の常連になりました。ある日、春ちゃんは自分には優しい父親がおり、父親を愛していると話しました。ところが、春ちゃんは急に拳を強く握り、涙を必死でこらえていました。実は、彼女は病弱な父が長期にわたって家計を支えていないことを、恨んでいると嘆きました。

 その後、春ちゃんは時々、私は醜いかしら、何故クラスメートはみんな私を避けるの、と聞いてきました。150センチしかない彼女は痩せて艶のない肌をしており、顔は特に美形でもありません。しかし、彼女の髪の毛や眉毛、目、鼻…などそれぞれは特徴があると述べ、最も重要なのは、彼女の思いやりや優しさ、忍耐、謙虚、強い責任感、誠実さであると褒めました。

 顔の話をする度に、私は自分が中学生の時、不細工な外見を両親のせいにしたことを話します。すると春ちゃんは、「校長先生は嘘をついている。私を慰めようとしているからでしょう」と言いました。私は「いいえ、むしろ自分のことを慰めているのかも知れません」と答えました。「20歳頃に入ってからは自分の外見に対するコンプレックスが徐々になくなり、自分のことが好きになったのです」と続けました。どのようにコンプレックスを無くしたの?という春ちゃんの問いに、「バスケットと、詩を読むことが私を変えたのです」と答えました。彼女は「詩って、どんなものですか?七言律詩とかですか?」と興味深く聞いてきました。バスケットより、詩が彼女の心を動かしたようでした。

 1週間後、春ちゃんは分厚い原稿用紙を持って私のオフィスに入って来ました。表紙には「海の子どもたち」という題が書かれています。なんと春ちゃんは、この1週間で中編小説を書き上げたのでした。私は彼女の文才と意志の力を褒め、自分も中学2年生の時に武侠小説マニアだったことや、その小説の内容をペラペラと話しました。春ちゃんは目を丸くして聞いていました。私たちの師弟関係は、ますます親しくなった気がしました。

 その時、あるアイディアが浮かびました。3年5組の全員と担任にそのアイディアを話すと、全員の支持を得ました。それは、4月中旬に春ちゃんの小説を台本として、劇を行うということでした。春ちゃんは主人公と監督です。皆、今回の劇は意義深いことを理解し、それぞれのチームは懸命に準備しました。

 春ちゃんは緊張のあまり、体と両手が震え出すことをとても心配していました。私は春ちゃんに、自分を緊張させる人、事、物を高度・中度・低度によって順番に紙に書くようアドバイスしました。紙いっぱいに書かれた項目の中で、緊張の度合いが高度になっているのが「教諭のラン主任との面談」でした。春ちゃんは緊張の度合いが低いことからスタートし、1つ1つに対応して、緊張はだいぶ抑えられるようになりました。しかし、ラン先生との面談はまるでドラマのようでした。

 私は春ちゃんに、ラン先生が来るまで目を閉じてリラックスするようにと助言しました。春ちゃんもその通りにしました。ラン先生がちょうどうその間に教室に入り、春ちゃんの前に座ると、春ちゃんは目を開けて驚いたのか、キャーと大声を出して椅子ごと後ろに倒れてしまいました。春ちゃんが急いで起き上がろうとした時、ラン先生の優しい笑顔が目に映ったようです。春ちゃんはこれまでに習得したテクニックでラン先生と対談を始めました。彼女は短い間にたくさんの順応テクニックや人間関係の対処法を学びました。これらのことが、彼女の劇の監督とリハーサルに役に立ちました。

 春ちゃんは、合計2回の劇の脚本と監督を務めました。最も素晴らしかったのは、劇を上演するまでの過程で、彼女がクラスメートと触れ合い、綿密な打ち合わせをし、話し合いをすることができたことです。チケットの販売も好調で、彼女は最優秀女優賞を獲得しました。この10カ月間、春ちゃんは緊張で全身が震えることをすっかり忘れていました。不思議なのは、劣等感を持つ少女が、小説の創作や脚本作り、演出の才能を中学生活の最後の時期に発揮できたことです。

 何年も経った後、私はある学校で講演を行いました。会場に入ってから、ファッショナブルな身なりをした若い女性が私に笑顔で何度もお辞儀をしてきました。私は誰だろうかと考えている時、女性は「最優秀女優賞の林惜春が校長先生にご挨拶を申し上げます」と声をかけてきました。私は「おー監督か」と返事をしました。その瞬間、全ての記憶が蘇りました。

 ※呉雁門(ウー・イェンメン)

 呉氏は2004年8月~2010年8月までの6年間、台湾雲林県口湖中学校の第12代校長を務めた。同校歴代校長の中で最も長い任期。教育熱心で思いやりのある呉校長とこどもたちとの間に、たくさんの心温まるエピソードが生まれた。

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