アングル:豪経済の長期繁栄に終止符、構造転換がコロナで裏目に

2020/07/05
更新: 2020/07/05

Swati Pandey

[シドニー 29日 ロイター] – 世界金融危機にさえ耐え抜く底力を見せたオーストラリア経済も、新型コロナウイルスにはかなわなかった。過去最長を記録していた景気拡大局面は突然幕切れを迎えて深刻な景気後退(リセッション)に突入、今後回復までに相当長い道のりをたどりそうだ。

新型コロナのパンデミック(大流行)への対処という意味では、同国は死者を100人強に抑え込んでいる点から大きな成功を収めていると言える。だが感染防止で海外との往来をストップしたため、成長をけん引してきた観光、教育、移民という「3本柱」が大打撃を被った。

オーストラリアが直近で経験したリセッションは1990年代初め。当時18歳だったフィオナ・グリンさんは、いったん音楽出版関係のアルバイトで生活をしのいだ後、正社員に転じてエンターテインメント業界で実りのある職歴を重ねることができた。

ところが今回はそうした幸運に恵まれていない。シドニーのANZスタジアムのマーケティングディレクターを4月に解雇された彼女は、借りていた家の契約を解除し、メルボルンの実家に戻らざるを得なくなったのだ。

パンデミックとともにオーストラリアが30年ぶりにリセッションに陥り、失業率が19年ぶりの高さとなる7.1%に跳ね上がったことで、生活手段を奪われたのはグリンさんをはじめ数十万人に達する。

オーストラリアは、世界的に見ればロックダウン(封鎖)をいち早く解除した国の1つに属する。解除時期も政府の想定より前倒しになった。それでも第1・四半期の成長率はマイナス0.3%に沈み、足元では新規感染者が再び増加して景気回復の前途を危うくしている。

雇用の面で特に女性が痛手を受けつつある。フルタイムの職探しをしている女性失業者はロックダウンが始まる前の2月が5.4%だったが、5月は8.3%に上昇。同じ期間の男性は4.8%から7%と上がり方が鈍い。

現在政府からの給付金を受け取っているグリンさんはロイターに「オーストラリアは幸運な国として知られているのに、今の私はとても幸運とは言えない。何か就職の機会がないか数人に打診しているけれど、まだなしのつぶてです」とうなだれた。

 

<L字型回復>

オーストラリアでは過去最長の景気拡大が続いていた間に、経済構造をサービス分野主導に転換していた。急成長する中国に豊富な鉱物・コモディティ資源を供給する一方で、工業生産能力は減らしてきた。

結果としてサービス業が国内総生産(GDP)のほぼ3分の2を占めるまでに拡大。新型コロナ感染対策としての国境封鎖とソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保が、とりわけ大きな悪影響を与える経済構造になっている。

シティのグローバル・チーフエコノミスト、キャサリン・マン氏は「観光業依存型経済は、われわれが最も懸念するタイプだ」と述べ、この先製造業は全般的に「V字型」で回復するだろうが、サービス業ないし一般消費セクターは「L字型」の回復、つまり完全な回復にはしばらく時間がかかる恐れがあるとの見方を示した。

 

<負の連鎖>

政策担当者も、経済の正常化が「日暮れて道遠し」の感を抱いている。

オーストラリア準備銀行(中央銀行)は、過去最低の0.25%となっている政策金利について、雇用と物価の目標達成に進展が見られるまで据え置くと表明している。

ロウ総裁は「われわれは長い期間、低金利を続ける」と述べ、これから数年間は「ウイルスの影」に悩まされるだろうとも指摘した。

総裁が懸念するのが、移民の流入減少が消費需要を押し下げ、労働需給をひっ迫させるという人口減少の負の連鎖だ。「国民はリスク回避姿勢を強め、お金を借りる気にならない。オーストラリアで人口減少のダイナミクスが進行する」という。

ネパールからの留学生プジャ・バスネットさんは、ウエートレスのアルバイトを失職したことで身の振り方を改めて考えているところだ。

バスネットさんは「過去2カ月間仕事がないまま、ずっと家にこもっていた。貯金も底を突きかけている。外国人なので、(政府の福祉機関である)センターリンク(の給付金)を申請する手段さえない」と嘆く。

L字型回復は失業率高止まり期間を長期化させ、オーストラリア国内では仕事を奪い合う様相がこれから強まる以上、彼女の将来はもっと厳しくなる。

バスネットさんは「本当に先行きが不安。1週間で30-40件の仕事に応募しているのに、何の反応もない」と語った。

Reuters
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