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4月6日の東京スカイツリーと隅田川の桜

春うらら 隅田堤に桜咲く

 【大紀元日本4月15日】

春のうららの隅田川
のぼりくだりの船人が
櫂のしづくも花と散る
眺めを何にたとふべき

見ずや曙 露浴びて
われにもの言ふ桜木を
見ずや夕暮れ手をのべて
われさしまねく青柳を

錦おりなす長堤に
暮るればのぼる朧月
げに一刻も千金の
眺めを何にたとふべき

日本人が好きな歌

 確信をもって推測するが、私たち日本人には「無条件に好きな歌」があると思う。

 挙げればきりがないので、3曲に絞って思い起こしてみる。例えば「故郷(ふるさと)」、「荒城の月」、それに「花」というところでいかがだろう。

 その「花」について、昔から不思議な感じがしていたのだが、前の2曲に比べて、なぜこの歌の題名が「花」などというあまりにも普通の名詞で、それを調理もしない大根を皿に乗せるように、どんと出してきたのであろうか。

 歌詞の内容は、春の隅田川の明るい情景の描写であって、花そのものについては「桜木」ぐらいしか述べられていない。それでどうして「花」なのだろうかと長らく思ってきたのだが、要するに、これは組曲の中の一曲であって、他の曲名に合わせるために「花」になったということを後で知った。

 武島羽衣の作詞による唱歌「花」は、瀧廉太郎の組曲『四季』4曲の中の第1曲として1900年に発表された。『四季』の他の歌は、第2曲が「納涼」、第3曲が「月」、第4曲が「雪」で、それぞれ夏秋冬に相当する。作詞者は「納涼」が東くめ、「雪」が中村秋香。「月」については、作曲者の瀧廉太郎が作詞も行っている。

 ただ、この中の「花」だけが、圧倒的に親しまれて今日に至っているのだ。

「花」の由来はどこから

 さて、それでもなぜ「花」なのか、今一つ腑に落ちない。もともとこの第1曲の曲名は「花盛り」だったというし、第2曲は「納涼」であるから、漢字の「一文字」という必要性の結果であるとも思われないのだ。

 第2曲の「納涼」はさて置き、その他の「花」「月」「雪」については出典がある。唐の詩人・白居易(772~846)の「寄殷協律(殷協律に寄す)」の一句「雪月花時最憶君(雪月花の時、最も君を憶ふ)」 に見られる「雪月花」がそれである。

 協律(きょうりつ)とは、祭祀を行う際に奏でる音楽を担当する役人のことであるが、ここではその役職に就いていた白居易の部下であり、また親友でもあった殷堯藩(いんぎょうはん)を指している。江南の地・杭州の知事として数年を過ごした白居易は、56歳の時、長安の都へ召し返される。その長安から白居易は、杭州にいる友にこの詩を書き送ったのである。

 「雪月花が美しいそれぞれの季節には、何よりも君のことを憶(おも)う」。「憶」とは、記憶の中で、相手を懐かしんで思うことを指す。ここだけを見ると男女の恋愛の場面のようにも見えるが、漢詩の世界では、男の親友間でのこのような表現は通常のことであり珍しくはない。

 いずれにせよ、「白氏文集(はくしもんじゅう)」を始めとする白居易の詩文が日本文化に与えた影響は絶大であった。この後、「雪月花」が日本文学の中の詩語として定着したことは、「白妙の色はひとつに身にしめど雪月花のをりふしは見つ(藤原定家)」などに見られるように、本来は和語を中心に綴られる文学ジャンルにおいて、「和歌の中の漢語」という特異な例を認知させるほどの存在感を示したことでも想像できる。

「のぼりくだりの船人」の現代版

早世の天才 瀧廉太郎


 話を元へ戻すが、瀧廉太郎の組曲『四季』の夏以外の曲名に、この「雪月花」が一文字ずつ配され、それで春が「花」となったということである。そう説明されれば、なるほど日本人が親しんできたこの歌の題名に「花」とは、なかなか合っていて良いなという気もしてくる。

  「花」は、隅田川の堤に咲く桜ばかりではない。

 水ぬるむ春になれば、隅田川の川面や両岸は活気がみなぎり、躍動感にあふれてくる。川面には、渡船や荷船の船頭など隅田川を生業の場としている人々の往来だけでなく、大学生による漕艇(ボート競技)なども当時から隅田川で盛んに行われていたという。

 そこで歌詞の中の「船人」とは誰かを想像するのだが、「櫂のしづく」というところから見て、これは櫓をこぐ船頭ではなく、どうやらオールを握るボートの若者たちを指しているらしいのだ。

 つまり、この歌の題名の「花」は、若々しく、活気がみなぎり、躍動感にあふれ、そして美しい曙から日暮れまでの隅田川の春の情景の全てが、まさに春の花のようであることを意味していると言えるだろう。

 この組曲の発表時、瀧廉太郎は満年齢で20歳の若さであった。

 翌年、国費留学生としてドイツのライプツィヒ音楽院に留学するが、肺結核のため1年で帰国。大分県で療養に努めるも満23歳で没する。

「上を向いて歩こう」

 隅田川の両岸に、今年もまた美しい桜が咲いた。花の賑わいに変わりはないが、人々は、例年になく「静かな花見」を楽しんでいる。

 隅田川の浅草側から見た対岸に、今も建設中の東京スカイツリーが聳え立つ。今年12月に竣工し、来春には開業予定。今年3月18日に、旧国名の武蔵にちなんだ634mの目標高に達した。

 全国的な晴天に恵まれた4月6日。隅田川の河畔を歩く多くの人々が、桜を愛で、天空のタワーを眺め、広大な青空を見上げていた。

 本当にここでは皆、上を向き、空を見ている。

 そう言えば、飛行機事故で亡くなった坂本九さんの「上を向いて歩こう」という歌があった。

 上を向いて歩こう、涙がこぼれないように。

 私たち日本人が「無条件に好きな歌」の4曲目には、おそらくこの歌が入ることを、同じく確信をもって推測する。

隅田堤には桜が似合う

(文/写真・牧)


 (11/04/15 07:00)  





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隅田川  瀧廉太郎  白居易  藤原定家  東京スカイツリー  上を向いて歩こう  


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