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【漢詩の楽しみ】 送元二使安西(元二の安西に使いするを送る)

 【大紀元日本5月15日】渭城(いじょう)の朝雨(ちょうう)、軽塵を浥(うる)おし、客舎青青(かくしゃせいせい)、柳色新たなり。君に勧む、更に尽くせ一杯の酒。西のかた陽関を出づれば、故人無からん。

 詩に云う。いよいよ旅立ちの日、渭城の町は昨夜からの雨も上がり、土ぼこりもしっとり潤って、爽やかな朝をむかえた。宿舎の前の柳は、やわらかな雨に濡れて、いっそう青々としている。いよいよ出立する君よ。さあもう一杯、私の酒杯を受けてくれ。西の彼方の陽関という関所を出たならば、こうして酒を酌み交わす友もいないだろうから。

 作者は王維(699~759)。その友人の「元二」という人物は未詳である。元が姓、二は名ではなく排行といい、同族で同世代の男子の中で上から二番目を指す。

 漢詩の中の男たちは、親友との送別を平時とは違う情感の高まりととらえ、その場面を詩で飾った。なかでもこの一首は、送別詩の代表ともいうべき作品であろう。

 官命による赴任なのだろうが、これから友が向かうのはなんと安西都護府。今日でいう新疆のクチャ(庫車)あたりであるから、まさに最辺境の地である。見送りの場所である渭城は、都の長安から渭水を挟んだ向かい側の町・咸陽(かんよう)のことであり、当時西の方へ旅立つ人をここまで見送るのが慣わしであった。

 詩の情景は、この上なく美しい。一年のうち、ほとんどの日が砂塵にまみれるこの土地にも、万物を輝かせる慈雨が降った。その潤いは砂漠の乾きに瞬時にして消えるであろうが、それでも旅立ちの朝にふさわしい清澄な天地を与えてくれたのである。

 古来より中国には、旅人の無事の帰還を願って、柳の一枝を折り、さらにはそれを環状にして旅人への餞とする習慣があった。詩には見えないが、おそらく青々とした柳の枝でそれをしたに違いない。

 別れの酒宴は昨晩たっぷりと味わい、話も尽きた。ただ、旅立ちの今、もう一杯だけ君に注がせてくれ。それが万感の思いを込めた「勧君更尽一杯酒」なのである。

 今春、大きな不幸があった日本のことをふと思う。その苦難はまだまだ長く、辛く、重いものだが、その中で我が同胞は、世界が驚嘆するほど見事に支え合い、助け合いながら日々を懸命に生きている。

 しかし、それぞれの事情があって、住み慣れた土地を離れねばならない人も多い。

 去る人、見送る人。別離のその時、お互いに祈るのは、ただ相手の健康と安寧だけである。他に何の望みがあるだろう。ありがとう。お元気で。そんな言葉を交わす光景が、被災地に無数にあることは想像に難くない。

 減らないご苦労を背負ったまま、慣れない土地で新しい生活を始める被災者の方が、もしも身近なところに来られたら、被災者ではない側はどうするか。

 簡単なことである。日本人であればよい。

 親しい隣人として、また良き友となって、一緒に生きていくだけでも、そのご苦労の感じ方はいくぶん和らぐであろう。 

 (聡)


 (11/05/15 07:00)  





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 漢詩の楽しみ  王維  


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