THE EPOCH TIMES

旧満州開拓団の「碑」劇 行き過ぎた「愛国」も焦点ぼかしのためか

2011年08月10日 07時32分
 【大紀元日本8月10日】中国共産党の中央宣伝部(中宣部)が温州高速鉄道事故に関する報道禁止令を出した7月29日に、党の機関紙・人民日報傘下の環球網が「黒竜江省ハルビン市方正県に『満州開拓団』の石碑が建てられた」との情報を流した。

 中国人の反日感情はいとも簡単に火がつく。たちまちネット上で、「慰霊碑建設は国恥だ」「侵略者を慰霊する必要はない」との強い反発が上がった。3日には、尖閣諸島問題でも大活躍した反日団体「保釣連合会」のメンバーら5人がはるばる河北省、河南省、湖南省から方正県にやってきて、慰霊碑に赤いペンキをかけたうえ、ハンマーなどで一部を壊した。5人の行為がネット上で「五勇士」「抗日英雄」と絶賛される中、非難の矛先である方正県側はとうとう、5日深夜から6日未明にかけてひそかに石碑を撤去した。

 石碑は中国外務省の承認を得て、方正県が今年7月に約70万元(約850万円)をかけて建設した。10日余りで撤去された石碑のすぐ側には、1963年に建立された日本人公墓がある。こちらのほうは、旧満州開拓団の犠牲者を祀っているが、文化大革命の動乱も生き抜いてきた。48年もの歴史ある公墓に、250人の名前が刻まれた石碑を新たに備えつけただけのことだった。

 それなのになぜ、今回この「碑」劇が繰り広げられたのか。それは、全国に広がる高速鉄道事故への不満をなんとか鎮めようとする中宣部が、絶好のネタとするためだった。そして、中宣部のこの目論みは反日団体が見事にやってのけた。

 ネットユーザー「草原上昇起不落的西瓜」はこう指摘する。「国民に不満がつのる度に、何人かの愛国戦士が必ずいいタイミングで躍り出て、日本を槍玉に挙げるのだ。民衆の関心をそらし、一部の人を窮境から救い出す」。また、ユーザー「胆小草民」は、「このご時世で、もっとも使いやすいのは反点xun_、国という手だ。上手く使えば、民衆の注意をそらすという絶妙な効き目がある。『抗日五勇士』が方正県で石碑を壊したという『壮挙』は、まさにその大役を果たした」と揶揄する。8日付のラジオ・フランス・インターナショナル(RFI)もこの点に注目し、「方正県の石碑事件で、高速鉄道事故が人々の視野から消えるのは2週間を要しなかった」と指摘する。

 行き過ぎた「愛国」

 旧満州生まれの日本人映画監督・羽田澄子氏は2008年に「嗚呼 満蒙開拓団」という映画を製作した。企画の動機は、「日本の敗戦時に、旧満州で難民となり亡くなった多くの開拓民のために中国方正県政府が建立してくれた『方正地区日本人公墓』があることを知った」からだと語っている。

 公墓の隣には、麻山自決事件(421名の日本人開拓団がソ連軍を前に集団自決した)で犠牲となった日本人の公墓も1984年に建立され、日本人孤児を育てた養父母の墓と併せて、方正県が一帯を中日友好園林として整備を進めていた。

 中国国内の報道ではこれらの背景を取り上げることはなかった。慰霊碑の建立に一辺倒したメディアやネット上の「愛国者」は、「侵略日本軍に記念碑を建てるとは」と煽り、「国家大義」や「民族尊厳」といった大義名分を引き出す。国内メディア・中選網のコラムリスト・姜莱氏はこれについて、「極端すぎる。最初から『愛国』か否かとか、『売国奴』などを持ち出すと、理性的な論議をする土台が完全に失われてしまう」とメディアの報道姿勢を批判した。

 また、方正県の石碑建立の動機は「日本からの投資誘致を狙った媚びる行為」とメディアに批判されるが、RFIの報道によると、中国中央テレビ(CCTV)の黒竜江省駐在記者・王躍軍氏は番組の中でメインキャスターの誘導に乗らず、次のような事実を明らかにした。「80年代に、稲作専門家の藤原長作氏が6回にわたり方正県を訪れ、無償で米作りを指導し収穫量を上げた。この栽培法は後に全国25の省・市・自治区で採用された。また、日本人は方正県で小学校を建てたり、農業人材の育成にも尽力した」。すべては無償ということが強調されたことで、メインキャスターが誘導する「投資誘致説」は成立しなかったという。

 一方、日本人公墓の維持管理を支援する「方正友好交流の会」(東京)の大類善啓・事務局長は7日の産経新聞に、「江沢民政権以降、中国は排外的な愛国主義が強まっている」とコメントしている。米VOAも大類氏の話として、今回の騒ぎは中国政府の近年の行き過ぎた愛国教育の産物であると指摘する一方で、中国人の仁愛の心を示す日本人公墓の存在が、これをきっかけに初めて世に知られたとも伝えた。

 そんな中、環球時報は8日、すでに撤去された慰霊碑について、「碑の建立は間違い」であったとし、「中国社会の基本的な価値観に反した」方正県政府は、「勇気を出して社会に謝罪すべき」と追い打ちをかける社説を掲載した。

(翻訳編集・張凛音)


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