THE EPOCH TIMES

≪医山夜話≫ (36) あるゴミ回収人との出会い

2011年08月14日 07時00分
 【大紀元日本8月14日】私の患者には会社の副社長から、弁護士、教師、料理人、歌手、ダンサー、バイオリニスト、そしてゴミ回収人まで、様々な職業の人びとがいます。今日はこのゴミ回収を仕事としている患者の話をしましょう。

 社会的な地位が高く、事業が成功した患者たちは、診療所にいる時も緊張した表情で、携帯電話に絶え間なく着信があり、一分一秒の暇もないようです。

 それに比べて、彼はいつも自然に微笑んで、何も心配ごとなどないかのようです。待合室で待っている時も静かに落ち着いた様子で、たまに音楽に合わせて足でリズムを取っています。彼と知り合ったのには、こんなきっかけがありました。

 私は毎日、同じ道を通って通勤します。どこの角で曲がるのか、路上にどんな特徴があるのか、ほとんど熟知しています。そのあたりには数カ所のゴミ箱が置いてあり、ゴミ箱の中身を漁る人もよく覚えていました。ある日、そのゴミを漁っていた彼が診療所に来た時、私はびっくりしてしまいました。受付のアニーも驚いて、彼は道を聞くためにここに来たのだと思ったようでした。

 「どんな御用でしょうか?」と、アニーは聞きました。

 「診察をお願いしたいのですが」。彼が私の名前を述べると、私は驚きで逃げたい衝動にかられました。この時、「貧富を問わず、患者を平等に扱う」という、自分がかつて誓った言葉を思い出しました。ゴミを漁る貧しそうな人が来ただけで、私はまるで幽霊を見たかのように慌ててしまったのです……。

 「龍を好む葉公」という古い中国のことわざがあります。葉公は、大の龍好きです。彼は家中を龍の彫刻で飾り、着る服も食器も、すべて龍の模様で揃えました。天に住む本物の龍がそれを知って感動し、「わしのことをそこまで好きなのか。ならば一度会ってみようじゃないか」と、龍は天から飛んできて、葉公の豪邸を訪ねました。葉公は本物の龍を見たことがなかったので、びっくりして家から逃げてしまいました。龍は言いました。「なんだ、わしのことが好きだというのは口先だけだったのか」。本当は好きではないのに、見せ掛けで好きだと言って相手の好感を得て、実際に現れたら慌てて言い訳をつけて逃げてしまう人の例えです。このことわざは、中国では小学生の教科書にも載っています。

 逃げようとした私は、まるで「龍を好む葉公」のようでした。

 私は気持ちを落ち着かせて彼に挨拶し、診察を始めました。彼と会話を交わすうちに、私は本当に感動しました。彼は生活のためにゴミを回収しているわけではなく、ごく普通の青年ですが、とても貴い心を持っています。

 「私は生活に困っていないし何も要りません。ただ資源の回収を自分の仕事だと思っています。だから、月曜日にアルミ製品を、火曜日にプラスチックとガラス製品を、水曜日に新聞類を回収しています……。もし誰もが資源回収の規則をしっかりと守れば、地球は必ずもっと美しくなります。環境保全と改善は、小さな事からやり始めるべきです」と、彼は言いました。

 この話を聞いて、ゴミ分別の意識のない自分が恥ずかしくなりました。ゴミ分別を面倒くさがり、すべてのゴミを一緒に出す私のような人がいるために、ゴミ箱の横で忙しく働く彼のような人がいるのです。

 読者のみなさん、もしあなたがうわべだけを重視しない、服装や顔で人を判断しない人であれば、善良な心を持って他人を助ける人が、往々にして周りに注目されない、ごく普通の人であることに、あなたはきっと気づくでしょう。

 ある日、彼が全身泥まみれになって遅れて診療所に来ました。彼は申し訳なさそうに、「ある車が道路の真ん中でエンストしてしまい、4、5人の男性が押して、やっとその車を路肩に移動させました」と、遅刻した理由を教えてくれました。 

 彼はわれわれより更に他人の困難を気遣うことができるのです。もし私が知らない人に道を聞かれたら、相手が分かるまで丁寧に説明しますが、彼は少しの躊躇もせずに相手を目的地まで案内するでしょう。

 また、こんな気まずいこともありました。

 ある日、彼は私に二つの額縁を持ってきました。竹細工の枠に色褪せた中国の切り絵の入った、精巧ですが少し古い物でした。恐らく、ゴミ箱に捨てられた物を拾ってきて、中国人である私に見せたかったのでしょう。

 彼が宝物を見せるように新聞を開けて私に渡した時、私は鬱陶しい気持ちを隠すことができずに、露骨に顔に出てしまいました。彼の心は氷水をかけられたように、「すみません、あなたがきっと、自分の祖国の民芸品が好きだと思ったのです。これはプラスチックの造花より何倍も美しいですね。少し古びているけど、海を渡ってやっとここに辿り着いたのですから」と説明しました。私はすぐに自分の過ちに気づき、彼に謝りました。そうですね、はるばる海を渡ってこの国に来たのは、この竹細工の額縁だけではなく、私自身もそうではありませんか?

 ゴミの回収をする彼は、何をするにも楽しく仕事をし、楽しく生きています。一方、楽しく暮らせるはずの社長、経営者たちはつらい人生を送っています。人生を楽しくするには、どれほどの物質を占有するかではなく、精神的にどれほど保有するかが肝心です。生まれる時に持ってこられるもの、死ぬ時に持っていけるものとは何でしょうか。読者のみなさんは、考えたことがありますか?

 (翻訳編集・陳櫻華)


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