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長い年月を越えて現代に甦った、行田の古代蓮(大紀元)

埼玉・行田 古代蓮と八月の祈り

 【大紀元日本8月13日】8月5日の朝7時過ぎ、JR高崎線の行田(ぎょうだ)駅を降り、目的地である「古代蓮の里」に向かうバスに乗ったとたん、スコールのような激しい雨に見舞われた。

 蓮(ハス)の花は未明に開き、午前中だけその美しい姿を見せて、同日の午後には閉じてしまう。2日目と3日目も同様の動きをするが、4日目には完全に花弁を散らす短い命なのだそうだ。そこで蓮の観賞は早朝がよいと聞いたので、東京を早立ちしてきた。ところが、着いたとたんの叩きつけるような雨に、今朝開いた花は大丈夫かと気をもんだ。

 行田の蓮は、別名「古代蓮」と呼ばれて親しまれている。今から40年ほど前、行田市のゴミ処理施設を建設する造成工事でできた水溜りに、蓮の葉が生え始めた。考古学的な調査の結果、1400年から3000年ほど前の種子で、生命力を保ったまま地中に眠っていたものが、長い眠りから覚めるように発芽したことが判った。以来、同市では、この古代ロマンあふれる蓮を、市の天然記念物に指定して大切に保護し、増やしていった。

 蓮の開花季節は6月下旬から8月初めまで。この日はシーズンの最後で、もう多くの蓮が散った後であったが、これから咲く花もまだいくらか残っている。ただ、先ほどの強い雨は、やはり開いた花弁に相当な負荷をかけたらしく、端正なはずの花の姿を大きく崩していた。

 しかし、それでも花は美しかった。それだからこそ美しい、と言うべきかも知れない。縄文(または弥生)の時代に残された種子から生じた蓮が、21世紀の現代に至って見事に開花し、またその花が雨に打たれてなお凛としている様は、人為を超えた「美」であることに間違いはないようだ。

 8月。日本人にとって、それは深い祈りの月でもある。この稿を書いているのは8月6日で、66回目の広島の原爆忌である。その日、広島で生きながら焼き焦がされた無数の人々は、ただただ水を求めて、悶え死んでいったという。机上にあるペットボトルを見ながら、せめてこの水を広島に届けて、植え込みの草木を潤し、夏の日差しで熱くなった石畳に注いで差し上げたい気持ちにかられた。

 傍らの書架から、戦没学徒の手記『きけわだつみのこえ』を引き出して開いてみた。ふと目に留まったのは、鈴木実さんという東大法学部の学生だった人による「遺言状」と題された一文である。

 どのような経緯でその場所に至ったかは書かれていないが、学徒動員された鈴木さんは広島の原爆で重傷を負った。死期を悟った鈴木さんは8月25日の21時、この遺言状を遺し、その30分後に逝去する。享年20歳。カタカナ書きによる同文から、一部を引用させていただく。

 「父母上様ニ苦労バカリカケテ何ノ御恩返シモデキズ死ンデイク自分ハ残念デ御侘ビノ申シヨウガアリマセン。シカシ父母上様、自分ノ身ハ死シテモ魂ハ必ズ佛前ニテ父母上様ヤ姉上様妹達ヲ常ニ見護ッテイマス。魂トナッテ父母上様ニ孝養ヲ尽クシタイト思ッテイマス。ドウカ父母上様、姉上様、妹達ヨ泣カナイデクダサイ。(中略)父母上様、去ル六日ノ原子爆弾ハ非常ニ威力ノアルモノデシタ。自分ハソノタメニ顔面、背中、左腕ヲ火傷イタシマシタ。シカシ軍医殿ヲ始メ看護婦サン、友人達ノ心ヨリナル手厚イ看護ノ中ニ最期ヲ遂ゲル自分ハコノ上モナイ幸福デアリマス。鈴木実、昭和二十年八月二十五日二十一時、父母上様」

 直筆か口述筆記かは分からないが、これほど悲しくも美しい「遺言状」が、亡くなる直前の20歳の青年によって書かれたことに驚く。

 もはや続ける言葉を持たない。ただ、一つだけ肝に銘じておかなければならないのは、先の世に亡くなった人々に対して後世の私たちが恥ずかしくない生き方をし、託されたその責務を果たさなければならない、ということであろう。

 終戦記念日の8月15日は、奇しくも日本の多くの地方でのお盆に当たる。亡くなった家族や先祖の霊が一時的に家へ帰ってくるという考え方は、本来、佛教の思想からではなく、日本の他の信仰などが習合してできたものであるらしい。しかし、たとえ見えなくとも敬うべき対象を敬い、家族皆で祈りを奉げるお盆を、静かな年中行事として日本人は今後も大切にしていくだろう。

 それにしても今年は、新盆を迎える家がことのほか多い年となってしまった。

 3月11日、東日本はあまりにも突然に、しかも住み慣れた町もろとも、家族や肉親を根こそぎ奪い去られるという巨大な悲しみに襲われた。そして津波が引いた後には、がれきの山をかきわけて行方不明の家族を探すという、戦時中でもなければ考えられないような凄まじい光景が、私たちの前に突きつけられたのである。

 あれから5カ月、被災地では復興へ向けてのたくましい努力が始まっている。しかし、ご遺族の悲しみが本当に癒える日は、まだまだ遠いだろう。

 今夏のお盆は、例年にもまして深い祈りを奉げるとともに、私たちがそれぞれに果たすべき責務について、今一度考えてみたいと思う。蓮の花を前にして、そのことを誓った。
  
一面に花が咲く蓮田は、一つの清浄な世界になっていた(大紀元)

泥の中から生じて美しい花を咲かせる蓮は、君子の象徴とされる(大紀元)

(牧) 


 (11/08/13 07:00)  





■キーワード
古代蓮の里  行田市    原爆  きけわだつみのこえ  東日本大震災  お盆  


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