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【漢詩の楽しみ】 九月九日憶山中兄弟(九月九日、山中の兄弟を憶う)

 【大紀元日本9月11日】

独在異郷為異客
毎逢佳節倍思親
遙知兄弟登高処
遍挿茱萸少一人

 独(ひと)り異郷に在りて異客となる。佳節に逢う毎(ごと)に倍(ますます)親を思う。遙かに知る、兄弟(けいてい)高きに登る処(ところ)。遍(あまね)く茱萸(しゅゆ)を挿して一人(いちにん)を少(か)くを。

 詩に云う。ただ一人、故郷を離れた私は、異郷にあって旅人の身になっている。その客地でめでたい節句を迎えれば、ますます故郷の親兄弟が懐かしく思われるのだ。今日は9月9日の重陽の節句、故郷の皆は一緒に高台に登っていることだろう。そして、茱萸を髪に挿した人々の中で私一人だけが欠けていることに、皆は気づくのだろう。

 作者は王維(699~759)。山西省太原の出身で、科挙の準備のため15歳ほどで都へ出た。早熟の天才で、学問や詩作にすぐれたばかりでなく、絵画や書、音楽にも秀でていた。そのため10代から詩人として名を成し、王侯貴族のサロンで人気の寵児となる。想像ではあるが、この頃の王維は、朗誦する声や容姿も相当すぐれた美少年だったのだろう。この詩の時は17歳だったというが、確かに非凡の才が見えている。

 杜甫にも「登高」と題する有名な七言律詩があるように、重陽の節句に高台へ登って宴会を催す習慣は、古くから詩題の定番となっていた。ただ杜甫の詩もそうであるが、このテーマの作品には、宴会の場所から遠く離れてただ一人異郷にいる詩人が、家族や旧知を懐かしんでうたう望郷の詩や別離の悲しみを詠じた詩が多いのである。

 茱萸は、グミのような赤い実がなる植物だという。その小枝を髪に挿すと、菊花の酒を酌み交わすのと同様、邪気を祓うことができると信じられていた。

 『奥の細道』の終盤に至った松尾芭蕉は、北陸加賀の山中温泉に立ち寄って旅の疲れを癒している。その出で湯は有馬温泉に次ぐものであるとして、「山中や菊はた折らぬ湯の匂い」と詠んだ。山中の湯は万病を治す効能があるというから、邪気を祓って延命できるという菊を手折るには及ばないよ、という意味である。

 九月九日の重陽の節句は、菊の節句とも呼ばれる。仄聞するところでは、九州北部で今も盛んに行われる秋祭りの「くんち」は、九日(くにち)がその語源の一つになっているという。ただ、菊の節句に関連する行事や習慣は、日本にも数々あったのだが、端午の節句や七夕のような他の節句ほどには今日に伝わっていないようだ。

 とは言うものの、故郷と家族への思いを深くかみしめる年に、図らずも今年はなってしまった。今もなお、8万人近い人が避難生活をしているという。

 (聡)


 (11/09/11 07:00)  





■キーワード
漢詩の楽しみ  王維  重陽の節句  奥の細道  松尾芭蕉  


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