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第35代横綱・双葉山定次(ウィキペディアより)

東京・両国 いまだ木鶏たりえず

 【大紀元日本9月26日】柝(き)が入った。柝とは、相撲の呼び出しが使う拍子木である。その硬質の澄んだ音が場内に響き渡る。後半の土俵の盛り上がりに期待する客席のざわめき。十両の取り組みが終わって、いよいよ幕内力士の土俵入りを待つ両国国技館である。九月場所5日目の9月15日、久しぶりに国技館を訪れてみたが、やはり、この雰囲気はいい。

 日本人は心底相撲が好きなのだ、と感じた。この数年、相撲界は不祥事が続いていた。今年5月の夏場所は「技能審査場所」などという不名誉な名称に変えられ、日本の相撲史に再び汚点を残すこととなった。それだけに、ようやく正規の本場所となって両国に戻ってきたことを、多くの観客は喜んでいたようだ。

 相撲が法令等によって「国技」と定められているわけではない。しかし、それでも日本の国技として広く認知されているのは、法令よりもはるかに深遠な歴史と文化の「根」があるからであろう。

 その点が野球やサッカーとはまた違う、人気の多寡だけでは量れない相撲の重みなのだが、改めて考えてみても、相撲というのはずいぶん特異な競技であることに気付く。なにしろ尋常でない巨漢なのだ。もちろん、ただの肥満体ではなく、猛稽古で鍛え上げられた巨体である。それがぶつかりあう瞬間の圧力は1・5トンにもなるというが、こうして本場所の場内で観戦すると、遠く離れた2階席まで衝撃音と迫力が伝わってくる。

 「昭和の角聖」と称された大横綱がいた。第35代横綱・双葉山定次である。昭和14年1月場所の4日目、安藝ノ海に敗れて双葉山の連勝記録は69勝で止まった。

 「未だ木鶏(もっけい)足りえず」。双葉山が、敗れた自身の反省をこの言葉で表現したことはあまりにも有名であり、木鶏の故事もよく知られているので、ここで述べるには及ぶまい。ただ、本当に強い鶏はまるで木の鶏のように泰然自若としているという、この中国の故事が一体何を教示しているかということについて、今一度、原典を紐解いてみたいと思うのだ。

 『荘子』達生篇に、こうある。紀渻子(きせいし)という闘鶏師が、周の宣王のために強い鶏を養成することになった。十日ごとに、鶏の仕上がり具合をたずねる宣王。紀渻子は、そのつど鶏の未熟を答えていたが、ある時になって、ついにこう返答した。

 幾矣。雞雖有鳴者、已無変矣。望之似木雞矣。其徳全矣。(雞は鶏に同じ)

 幾(つく)せり。鶏の鳴くもの有りと雖も、すでに変ずること無し。之を望むに木鶏に似たり。其の徳、全(まった)し。(もう完璧です。他の鶏が鳴き声を立てても、何の動ずるところもありません。この鶏を遠くから望めば、まるで木彫りの鶏のようです。その徳は、完全無欠なものです)

 そう答えた紀渻子の言葉に注目したい。

 泰然自若の根本には「徳」が不可欠なのだ。ただし、『荘子』は老荘思想の書物であるから、ここでいう「徳」とは、対人関係の作法を説いた儒教道徳ではなく、道家の理想とする「徳」すなわち超俗的な「無為自然」のことを指す。

 木鶏の故事は、それほど大きな宇宙観を説いたものだったのだ。

 相撲は国技であり、伝統文化であり、また心技体の弛まぬ修行の道である。そのことを、角聖・双葉山は、現代の力士のみならず全ての日本人に示してくれたのであろう。

 
9月15日、九月場所5日目の横綱・白鵬による不知火型土俵入り(大紀元)

幕内最高優勝者に贈られる天皇賜杯(大紀元)

東幕内力士の土俵入り(大紀元)

色鮮やかな力士のぼりが、9月の空に映える(大紀元)

(牧)


 (11/09/26 07:00)  





■キーワード
相撲  国技  双葉山  白鵬  荘子  木鶏  老荘思想  無為自然  


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