アングル:ガザ情勢巡る国連外交、孤立する米国に代わり中国が主導権

2021/05/21
更新: 2021/05/21

[ニューヨーク 19日 ロイター] – 中東のパレスチナ自治区ガザの戦闘激化を巡って、国連で米国が孤立し、中国に国際社会における指導力と信頼性を誇示する絶好の機会を与えている──。複数の外交官は、こうした見方を示した。

トランプ前米大統領の「米国第一主義」を批判し、国際協調路線の復活を打ち出したバイデン大統領にとって、就任数カ月で早くも試練が訪れた形だ。

国連安全保障理事会では過去1週間、イスラエル軍とパレスチナ武装勢力の双方に敵対的な軍事行動をやめることを求める声明案を発表しようとする動きに対し、イスラエルと強固な同盟関係にある米国が繰り返し反対。これに業を煮やした安保理議長国・中国の王毅国務委員兼外相は公然と、米国が声明発表を「妨害」していると批判した。

ブリンケン米国務長官は18日、国連の行動が「(停戦という)目的に向かって前進するのに現実的で効果的なら、われわれは賛成する」と主張したものの、共感は得られていない。

シンクタンク、クライシス・グループの国連ディレクター、リチャード・ゴワン氏は「率直に言って、米国の姿勢は中国にとって天からの贈り物だ。米国はこれまで中国に対し、ミャンマー問題などについて国連の行動を支持するよう迫ってきた。ところが今、中東問題で安保理が声明を発表するのを阻止しつつある。これはバイデン氏が任命した米国の国連チームの評判を傷つけ、中国を責任ある大国に見せている」と指摘した。

1週間前には、西側諸国と非政府組織(NGO)が国連で開いたイベントで中国の新疆ウイグル自治区における人権侵害を非難し、中国の猛反発を招く場面があった。

こうした事情を踏まえ、ある米政府高官は中国政府にとってイスラエルやガザなど本当はどうでも良いのだと解説。「彼らは、自らが新疆で行っている大虐殺行為から国際社会の目をそらすための全ての機会を探っている。中東での暴力停止に向けてイスラエルとパレスチナ、その他の指導者と緊密な外交活動に従事しているのは、米国の方だ」と訴えた。

一方、中国の国連代表部は、米国の主張こそ「偽りで注意をそらす意図がある」と反論する。同代表部の報道官は「ガザにおける衝突は続き、日々市民の犠牲者は増えている。そんな状況に直面すれば、良心を持つ人なら誰であれ、敵対行動を止めるよう呼び掛けるだろう。米国には、イスラム教徒を気にかけていると証明するあらゆるチャンスがある」と述べた。

国連は従来、米国が指導力を発揮してきた場所だったが、中国は着々と影響力拡大の取り組みを進めてきた。特にトランプ氏が複数の国際機関を脱退したことなどで、中国の存在感は一段と強まっている。

<中国の巧妙さ>

バイデン大統領は今年1月の就任以来、中国に対抗していくため、米国が国連に再び関与する重要性を強調している。しかし、中国とチュニジア、ノルウェーがまとめたガザの戦闘停止を求める声明発表に米国が反対したことで多くの国が不満を募らせた、と複数の外交官は話した。

国連安保理の外交官の1人は「中国は明らかに、ガザ問題における米国の孤立につけ込もうとして、パレスチナ問題で珍しく指導的立場に立っている」と言う。

中国国連代表部の報道官は、ロイターに「安保理メンバーの大半は、停戦と暴力の阻止に安保理が一定の役割を果たすことを希望している。中国は議長国として自らの責任を果たさなければならない」と語った。

中国は最近、ロシアとともにそうした言い分と正反対の行動を取った。エチオピア北部ティグレ州での紛争に対する安保理の関与に消極姿勢を示したからだ。数週間にわたる非公式協議の後、米国が異議を唱えた結果、安保理は最終的に声明発表で合意した。

それでもアジアの国連外交官のひとりは「中国は巧妙に立ち回っている。中東外交のプレーヤーの一角を確保しており、他の大国の関与が弱い分、この動きはそれなりに理屈にかなってもいる」と分析した。

(Michelle Nichols記者)

Reuters
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