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【漢詩の楽しみ】 江雪(こうせつ)

 【大紀元日本12月12日】

千山鳥飛絶
万径人蹤滅
孤舟蓑笠翁
独釣寒江雪

 千山、鳥飛ぶこと絶え。万径(ばんけい)人蹤(じんしょう)滅す。孤舟(こしゅう)蓑笠(さりゅう)の翁。独り釣る、寒江の雪。

 詩に云う。どの山々からも飛ぶ鳥の影は絶え、すべての小径は雪に隠れて人の足跡も消えた。そんな風景の中、ただ一そうの小舟に、蓑笠(みのかさ)をつけた一人の翁がいて、雪の降りしきる寒々とした川面に釣り糸を垂れている。

 柳宗元(りゅうそうげん、773~819)の作。日本でもよく知られた、というより、李白の「静夜思」とともに、中学校などで日本人が最初に親しむ漢詩といってよい。

 それゆえに語句の解説は不要であろう。ただこの一首は、漢詩という文学ジャンルのなかでも、そのエッセンスが最高度に濃縮された大傑作といって過言ではない。

 したがって奥が深い。その理解の度合いは、ひとえに読者側の成熟度にかかっているのだが、読者が「理解した」と思うと、そこがすなわち理解の限界にもなってしまうので、この詩については「どこまでも味わう」というつもりでいたほうがよいだろう。

 この詩により、寒江独釣(かんこうどくちょう)が詩題や画題として、和漢を問わず定着したことは疑いない。また漢詩の解説書の多くは、この風景を作者が目にした実景ではなく、一種の心象風景であるとしている。

 それはそれで間違いではないだろう。ただ、雪中に釣り糸を垂れる老人の姿を、孤独や失意に耐えている「作者自身の投影」と見ることは、おそらく読者側の理解の限界の結果であるように思う。

 この短い五言絶句には、中国文学の壮大なコスモロジー(宇宙論)があるのだ。

 無辺の宇宙へ向かって突き抜けてこそ、真の「超俗」がある。そこに自身の姿をわざわざ投影させたなら、まだ作者は技巧を講ずるという執着、すなわち「俗」のなかにいることを自ら白状するようなものだろう。

 (聡)


 (11/12/12 07:00)  





■キーワード
漢詩の楽しみ  柳宗元  李白  


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