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【漢詩の楽しみ】 折楊柳(せつようりゅう)

 【大紀元日本3月27日】 

水辺楊柳麹塵糸
立馬煩君折一枝
惟有春風最相惜
殷勤更向手中吹

 水辺の楊柳、麹塵(きくじん)の糸。馬を立(とど)め、君を煩わして一枝を折る。惟(ただ)春風の最も相惜しむ有り。殷勤(いんぎん)に更に手中に向って吹く。

 詩に云う。水辺の柳は、麹にひく糸のように細やかな、黄緑色の若芽が萌え出でている。馬を止め、君の手を煩わせて、その一枝を折り取ってもらった。するとどうだろう。春風が、柳の枝との別れを惜しむように、私の手の中にまで慇懃に吹いてくるではないか。

 「折楊柳」とは、単独の詩の題名ではなく、楽府題(がふだい)という定番のテーマの一つである。楽府(がふ)の歴史は漢代にまでさかのぼる。ただし、漢代の楽府は楽器の伴奏と歌唱をともなう詩歌であったが、唐代のそれは必ずしも演奏形式のものではなかったらしい。むしろ作詩の工夫のほうに重点が置かれていたのであろう。

 したがって、同じ楽府題に複数の作者が詩を残している場合も多い。この詩の作者は楊巨源(よう きょげん)という。770年ごろの生まれらしいが、生没年ははっきりしない。若くして進士に及第したのは確かなので、才能のあった人物なのであろう。

 古来より中国では、送別の際に楊柳の枝を取って輪をつくり、旅立つ友へ贈る習慣があった。もっともこの詩が、実際に別離の場面で詠じられたかというと、どうもそうではないような気がする。送別詩の絶唱である王維「元二の安西に使いするを送る」のような、旅中の無事を切に祈って友を送り出す際の、情感の高まりが見られないからである。

 むしろこれは、手折った柳の小枝に春風が香るという表現上の機知を楽しむために、「別離の場面を仮想して作った詩」と見たほうがよいようだ。

 漢詩のなかの春の風景も、なかなか捨てがたい。やわらかな陽光に映える水辺の柳。今の中国に、それを探すことは甚だ難しくなった。

 
(聡)


 (12/03/27 07:00)  





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漢詩の楽しみ  楊巨源  王維  


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