アングル:新型コロナもう1つの医療現場、退院後ケアという戦い

2020/05/04
更新: 2020/05/04

Gabriella Borter

[24日 ロイター] – ニューヨーク市クイーンズ区の住宅街に車を停めた看護師のフローラ・アジャイさんは、トランクを開け、個人防護具が詰まったプラスチック容器を取り出した。手袋と青いガウン、二重のマスク、フェイスシールド、さらに靴カバーを着用し、担当するCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)患者の1人が生活する家に足を踏み入れる。

47歳のアジャイさんは、ニューヨークの訪問看護師ネットワークの一員。ウイルス感染による呼吸器疾患から回復し、退院して自宅に戻った数百人の患者への支援にあたる。パンデミックとの次なる最前線で孤独に格闘する戦士のひとりだ。

感染力の高い新型ウイルスにより、ニューヨーク州内では少なくとも2万300人が命を落としており、国内における感染拡大の中心地となっている。米国における死者は他のどの国よりも多く、ロイターの集計によれば最低でも4万9000人を数える。

患者が病院における24時間体制の治療から自宅での生活に移行するに当たって、訪問看護師はきわめて重要な役割を担っている。アジャイさんは毎日、ウィルスに汚染されている可能性の高い住宅に出入りし、多ければ1日12回も個人防護具の着脱を市内の歩道で繰り返している。

防護具を何度も使い回すことはできない。だから、アジャイさんの車にはマスクやガウン、手袋が満載されている。

<「患者の目となり耳となる」>

「私たちも最前線で戦っている」とアジャイさんは訪問看護師について語る。彼女はいま、新型コロナに感染して入院していた病院から最近戻ってきた74歳の女性の家に入るため、ガウンの紐を背中で結んでいるところだ。「医師は、私たちが彼らの目となり耳となることを望んでいる」

ニューヨーク州保健当局のジョナ・ブルーノ広報官によれば、同州では4月22日の時点で4万303人の感染患者が退院しているという。

手指消毒用の除菌ローションのボトルを手に、ゆとりのある青いガウンを羽織ったアジャイさんはポーチの階段を上り、ドアのベルを鳴らす。ドアにはウサギの形のボードが掛かり、「ハッピーイースター」と書かれている。

患者の夫がサージカルマスクを着けた姿でドアを開け、アジャイさんに親しげに手を振って挨拶する。アジャイさんを室内に招き入れるときも、数フィート離れたままだ。

アジャイさんがこの患者に会うのは、退院してから初めてだった。患者の咳は数日前に電話したときよりはかなり良くなっている。アジャイさんによれば、このときは何かを言い終える前に咳き込んでしまうほどだった。

退院したCOVID-19患者が3日にわたって無症状を報告するまでは、アジャイさんも自身が感染するリスクを抑えるため、遠隔診療だけを行う。

「治療の一端を担い、患者を指導し、回復の力になれることが嬉しい」と彼女は言う。「それだけでやり甲斐になる」

それでもアジャイさんは、自分が患者の家から自宅にウィルスを持ち帰ってしまうのではないかと心配している。共に暮らすのは、23歳の息子と、彼女自身の妹だ。アジャイさんは家でもマスクを着用し、感染を防ぐため家族から6フィートの距離を保とうと心がけている。自分が愛する仕事のために払っている犠牲だ。

<回復支援、なお未知の領域>

アジャイさんが所属するのは、23の病院を擁する州内最大の医療事業者ノースウェル・ヘルスである。

ノースウェルでポストアキュート(急性期治療後)医療担当ディレクターを務めるマリア・カーニー医師は、入院していた患者が罹患前の生活の質を取り戻せるとしても、ほとんどすべての場合、退院後には何らかの医学的なフォローアップやリハビリテーションが必要になるだろう、と話す。

「私たちはまさに未知の領域に入りつつある。患者が今まさに何を必要としているか分からず、身体的にも精神的にもひどく弱っているのが分かるというだけだ」とカーニー医師は言う。「私たちの医療システムが回復の次のフェーズにどのように取り組めるのか。それが課題になっていくだろう」

これまでに退院した患者のうち、多くは脚部の血栓、筋萎縮、疼痛、倦怠感、心臓の問題、呼吸器系の苦しさの継続に悩まされている。

カーニー医師によれば、挿管処置を受けた患者の場合は、退院後もこうした症状が深刻に見られる。また、長期にわたる鎮静状態による影響、すなわち「集中治療後症候群」と呼ばれる症状と思われる認知障害を示す患者も多いという。

今週、ノースウェルが運営する病院を退院した感染患者の数は6600人を超えたため、同社ではさらに多くの訪問看護師を雇用することを検討している。また遠隔診療サービスの拡大や、退院患者の収容に向けた地元の経験豊富な介護施設との提携もありうるとカーニー医師は言う。

<微笑みと落ち着き>

アジャイさんは患者の自宅で、患者本人やその家族からの山のような質問に答える。食料品店にどれくらいの頻度で行くべきか、血圧を自分で測定するにはどうすればいいのか。

彼女は聴診器を使い、体液蓄積の兆候がないか患者の呼吸音を確認する。患者とその家族に、洗面用具を共用しないよう、ドアの把手や電灯のスイッチを消毒するよう念を押す。

冷蔵庫をチェックし、空であれば、慈善団体による食品配達を頼むという手段を提案することもある。横になっていると呼吸が苦しくなるので椅子にもたれて寝ていることが分かれば、もっと酸素供給が必要だと医師に伝える。

アジャイさんが担当するCOVID-19確定患者5人は、自宅に戻ってからゆっくりと着実な回復を示しており、再入院が必要となった患者は1人もいない。

アジャイさんは、患者の近くにいるときは二重のマスクとフェイスシールドを絶対に外さない。だが、彼女が微笑んでいることは、シルバーのアイシャドウを施した目の周りに浮かぶ皺で分かるし、彼女の落ち着いた声は安心感を与えてくれる。

「世の中は大騒ぎだが、患者のために平静さを保っている」とアジャイさんは言う。「怖がっているのは患者も私たちも同じだ。でも、私たちには平静さを保つことができる」

(翻訳:エァクレーレン)

Reuters
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