THE EPOCH TIMES

チベットの光 (20) 正法への願い

2012年11月02日 07時00分

 ウェンシーは最後には仇を討ち、母親の願いを叶えた。しかし、一定の時間が過ぎ、いざ仇を討ってみると、呪法の成功は過去のものとなり、ウェンシーを待っていたのは言い知れぬ空虚感と悲哀であった。報復は一時の快感を与えたが、残ったのは挽回不能の悔恨であった。呪法を放ち、雹を降らせたという罪悪感が次々に彼を襲い、多くの人を殺したことが、無尽の苦痛を彼に与えていた。彼は、自身が他人に苦痛を与えたことに思い至るとき、後悔がやまず、どうやって補償することができるのか、分からなかった。彼はいてもたってもいられなくなり、生きていても何の楽しみもないと考えるようになっていた。

 「私はきっと地獄に堕ちる」。彼は常にそう思うようになり、その恐怖が波のように彼に押し寄せた。「もし正法を修めることができれば、私が殺した人々を浄土に引き上げ、彼らを解脱させることができよう。もし正法を修めることができなければ、私の人生は地獄に堕ちるのを待っていることに過ぎない。そのようになっては、生きることに何の意義があるだろうか?」

 このとき、ウェンシーの念頭には正法を修めたいという思いが強くなり、しまいには飯も喉を通らなくなり、歩いていると座りたくなり、座ると歩きたくなり、完全に自分が何をしているのか、何をすべきかが分からなくなった。彼は、自分が何のために生きているのか、生きて世の中で何をするのか、厭世の感が強くなり、正法を修めたいという思いがだんだんと強くなっていったが、ラマの前では敢えてそれを言い出すことができなかった。

 日は過ぎ去り、ウェンシーの心はますます重くなっていった。ある日、ラマが数日間外遊することになり、彼が帰ってくると、ウェンシーの人生は百八十度転換することになった。

 ラマは帰ってきてから、表情には苦渋をにじませ、苦笑いをしていた。ウェンシーは思わずラマに尋ねた。「先生、帰ってきてから表情が冴えませんが、どうかしたのでしょうか?どうして苦笑いを浮かべているのですか?」

 「ああ!世事は無常だ!」ラマが嘆いた。「私には元々施主がいた。彼は金持ちで、私に対して敬虔だったが、三日前に突然、重篤になった。そこで、私に病気平癒の加持祈祷を頼んできたのだが、その甲斐なく昨日亡くなった。私はこれが原因で、この世間に一種の深い悲哀を感じている。人は世に生きて、金持ちになって楽しんでも、生老病死に対しては誰一人としてままならないのだ」

 ラマは苦渋の表情で最後にこう言った。「この老骨は、若い時から現在まで、ずっとマントラと誅法(ちゅうほう)、雹を降らせる法をやってきた。ああ!ウェンシーよ、おまえも年若いといっても、私同様に大罪悪を犯してしまった。そのツケは恐らく、いずれ私の頭上にくるだろうよ」

 ウェンシーはこれを聞くと、ある疑問が湧いたので、またラマに尋ねた。「私たちが殺した人たちは、先生が弥勒浄土世界に連れて行き、解脱するのではないのですか?」

 「理論上では可能だ。彼らを浄土に連れて行って、解脱させることができる。私はその儀式を知っているが、しかしそれは一種の形式に過ぎない。まだ誰も解脱されたためしはないのだ」

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