【伝統を受け継ぐ】奈良一刀彫

【大紀元日本9月23日】奈良市の中心地南部、世界遺産に指定されている元興寺の周りには江戸時代の町屋を多く含む歴史的町並みが残っている。ならまち(奈良町)と呼ばれる地域で、中世から江戸時代にかけて、伝統の奈良人形(一刀彫)、奈良漆器などの工芸に加えて墨、筆、晒など様々な産業が発展し、商工業都市として栄えたという。そのならまちの一角に奈良伝統工芸の情報発信地、「なら工芸館」がある。

館長は神箸勝さん、奈良一刀彫の第一人者であり、日展入賞歴を持つ彫刻家でもある。奈良には天平の昔から伝わる

神箸勝さん(撮影・Klaus Rinke)

工芸の伝統がある。それらの技術が伝統の中に閉じこもっていたのでは、過去の遺産になってしまう。時代の息吹を感じさせる作品を生み出してこそ現代の工芸であり、正倉院の御物が現代の感覚にも通じるように「1000年後の正倉院を目指さなくてはいけない」。「それには、情報を発信して、多くの理解者と支持者を獲得し、広く後継者を求める必要がある」とは神箸さんの持論である。

神社仏閣を始め、文化遺産の宝庫ともいえる奈良にあっては、その遺産を保護し維持するのが主眼であり、それ以上に新しいものを加える必要はないという気風が一般にあるという。そんな保守性の中で立ち上がったのが、神箸さんを中心とする若手芸術家たちであった。「奈良工芸フェスティバル」と銘打った自主事業を立ち上げ、作品展や一般向けのワークショップなどの催しを始めたのは20年前のことである。以来、「奈良工芸フェスティバル」は

奈良工芸館入口(撮影・Klaus Rinke)

毎年秋に開催され、多くの工芸ファンを喜ばせている。10年後に行政の支援を得られるようになり、2000年にようやく奈良伝統工芸の情報発信拠点として「なら工芸館」が設立されるに至った。「長い道のりでした」と神箸さんは振り返る。

「なら工芸館」では、受け継ぐ、創作する、開放する、の三つの基本理念のもと、工芸作家の常設展、一般個人・グループ対象のギャラリー、一般向けの工芸教室などの事業を展開している。また、2006年からは広く後継者を求め、育成するという目的で奈良工芸後継者育成事業も始まった。伝統の技術・技法の基礎を3年間の指導と支援によって伝承するというものである。すでに、一刀彫と赤膚焼の作家が独り立ちし、現在、第2期の3人が研修中である。

2年前に第一期の一刀彫研修を終え、新進の一刀彫作家として多くの期待を集める前田浩幸さん(29)と、前田さんの師であり、館長である神箸勝(号・東林)さんの話を聞く機会を得た。

前田さんは鳥取県の出身、地元の工業高等専門学校を卒業後

前田浩幸さん(撮影・Klaus Rinke)

、大阪の会社に就職した。インターネットで「なら工芸館」の後継者育成事業を知ったとき、子供の頃から絵を描くことが好きだったという前田さんは、自分の手で初めから仕上げまでやる工芸の仕事に魅力を感じ、心が動いたという。

「後継者育成事業を始めてから、400人を超す応募者がありましたが、前田君はその情熱と資質において、際立っていました」と神箸さんは言う。芸術家の目が若き才能を見抜いたのだ。

一刀彫の魅力は、鑿(のみ)跡を残した簡潔な造形と細密な色付けの調和

前田さんの作品(撮影・Klaus Rinke)

にあるといわれる。前田さんは「能人形、ひな人形などにみられる左右対称の作品が持つ「静」と、鹿など動物の作品が持つ躍動感「動」の両面があるところが面白いと思います。それに、絵が好きなので、彩色の彫刻という点にも惹かれました」と語る。

前田さんの作品は、穏やかな人柄からは想像しがたいが、強烈な個性を持った力強い作品である。工芸の域を超えて、主張と迫力を感じさせる。奈良一刀彫に、大きな可能性を秘めた後継者が誕生したようだ。

10月12日から2週間、「なら工芸館」内にあるギャラリー「阿字万事(あぜまめ)」で前田さんの個展が開かれる。また、今年の「工芸フェスティバル」は10月29日から11月13日までの2週間で、一刀彫、陶芸など9種類の体験講座が一般向けに開かれるという。

一刀彫の教室(撮影・Klaus Rinke)

神箸さんの作品(撮影・Klaus Rinke)

前田さんの作品(撮影・Klaus Rinke)

神箸さんの作品(撮影・Klaus Rinke)

(温)