焦点:「文化闘争」に踏み込む米最高裁、中絶と銃規制で判断へ

2021/05/24
更新: 2021/05/24

Lawrence Hurley Andrew Chung

[ワシントン 18日 ロイター] – 米連邦最高裁判所は、人工妊娠中絶と銃規制に関する重要な訴訟を取り上げることにより、米国における文化闘争の最前線に再び立つことになった。多くの米国民が重視する権利、そして恐らく、国内最高の司法機関である連邦最高裁そのものの未来が問われている。

この展開をさらに緊迫させるのは、2つの訴訟が、来年の中間選挙に向けた選挙活動のさなかに判決を迎えると予想される点だ。政治的に二極化した米国における今度の中間選挙では、バイデン大統領を支える民主党が、連邦議会上下両院で優位を維持できるかが決まる。

保守派判事が過半数を占める連邦最高裁は17日、妊娠15週目以降の中絶を禁じた州法を復活させようとするミシシッピ州の提訴を審理することで合意した。同州法の復活は共和党が支持している。全米レベルで人工妊娠中絶を合法化した、1973年の「ロー対ウェイド事件」最高裁判例を覆しかねない訴訟だ。

さらに連邦最高裁は4月26日、公共の場で拳銃を隠し持つことを禁じるニューヨーク州法に対する異議申立てについて審理することで合意した。この申立ては全米ライフル協会(NRA)が支援しており、銃規制に向けた全米規模の取組みをさらに後退させる可能性がある。

2つの訴訟は、連邦最高裁における次の年度、すなわち今年10月から2022年6月までのあいだに審理を行い、判決に至る予定だ。

この年度中には、これ以外にも、トランプ前大統領による「盗まれた選挙」という虚偽の主張を受けて共和党優位の州で成立した投票制限法や、黒人・ヒスパニック系学生の入学を増やすために大学が採用している積極的是正措置(アファーマティブ・アクション)に対する異議申立てなどの訴訟が審理されることも考えられ、非常に重要な時期になる可能性がある。

銃規制と人工妊娠中絶をめぐる訴訟で保守派が勝利を収めれば、リベラルな有権者の怒りと投票意欲がかき立てられ、2022年の中間選挙では民主党にとって追い風となる可能性があると一部の専門家は指摘する。

連邦最高裁による意志決定の研究を専門とするエモリー大学のトム・クラーク教授(政治学)は、「連邦最高裁はこれらの訴訟において、政治的右派が支持するような保守的な判決を下す可能性が非常に高いと思う。これが左派の側に行動と情熱を生み出し、投票率に影響を与える可能性がある」と話している。

ロー対ウェイド判決を覆すような判決は、多くの米国人の目には政治的なものに映る可能性が高く、民主党の候補者は穏健派や郊外地域の女性からの票を集めやすくなるだろう、とクラーク教授は続ける。

「人々から何かを奪うことは、彼らが求めてきたものを与えることよりも、さらに大きな怒りを生むものだ」とクラーク教授は言う。

ロイター/イプソスが米国の有権者を対象に昨年行った世論調査によれば、民主党支持者の76%、無党派の61%が「人工妊娠中絶は大半の場合において合法とすべきである」と考えているが、共和党支持者の場合は40%に留まる。

保守系シンクタンクのヘリテージ財団の法学者ジョン・マルコム氏によれば、これらの訴訟における判決は、リベラルだけでなく保守派も確実に刺激することになるという。

「保守派の中には人工妊娠中絶に反対する人が多いが、彼らは判決に刺激を受け、『よし、これでロー対ウェイド判決は骨抜きになった。後は私たちが中絶反対の議員を選ぶことだ』と考えるだろう」とマルコム氏は付け加える。

<バイデン大統領へのプレッシャー>

銃規制や人工妊娠中絶をめぐる判決は、連邦最高裁そのものに対しても影響を与える可能性がある。

バイデン大統領は4月9日、保守派優位に終止符を打つために一部のリベラル派が求める現行9人の判事定員の増加や、判事の終身制を廃止するなど、連邦最高裁改革の展望について勧告を行うための超党派による委員会を発足させた。

保守系の法曹団体「ジュディシャル・クライシス・ネットワーク」のキャリー・セベリノ代表は、リベラル派の活動家は判事の定員増加を働きかけることで連邦最高裁を牽制しようとしている、と話す。

「連邦最高裁は、リベラル派の主張に従うことよりも憲法遵守を心がけるべきだ」とセベリノ代表は言う。

リベラル派の活動家は、2016年に民主党のオバマ大統領(当時)が指名した候補の承認審査を上院共和党が妨害したことで生じた空席を含め、トランプ前大統領が連邦最高裁判事を3人も指名できたことにまだ憤慨している。最高裁は現在、6対3で保守派が優勢となっている。

人工妊娠中絶と銃規制をめぐる訴訟は非常に広範囲に影響する判決につながる可能性があり、その審理を連邦最高裁が決定したことは、ジョン・ロバーツ連邦最高裁長官の影響力低下を物語っている──。シカゴ・ケント・カレッジのキャロライン・シャピロ教授(法学)はこう指摘する。ロバーツ長官は法解釈の変更に対して慎重なアプローチを採る保守派として知られている。連邦最高裁の判事構成が5対4で保守派優位だった頃、ロバーツ長官は中間的な立場を占め、判断の分かれる訴訟の結果を決定づける1票を投じることも多かった。

だが、昨年9月にリベラル派のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事が死去し、トランプ前大統領が保守派のエイミー・コーニー・バレット判事を指名できたことで、連邦最高裁の勢力図は一変した。

「最も顕著な変化は、自分よりも右寄りの(保守派)同僚が法を明白かつ大幅に変更しようとする動きをロバーツ長官が阻止できなくなったことだ」とシャピロ教授は言う。

リベラル派の法律啓発団体「デマンド・ジャスティス」でエグゼクティブ・ディレクターを務めるブライアン・ファロン氏は、人工妊娠中絶と銃規制をめぐる訴訟を取り上げたことは、保守派判事らが自分たちの動きが生み出す政治的な反発を意に介していないことを示していると話す。

ファロン氏は「共和党政権で指名された判事らは、圧倒的多数という立場を活かすという点で、アナリストらが予想したよりもさらに迅速に動いているようだ」と話している。

(翻訳:エァクレーレン)

Reuters
関連特集: 国際