【伝統を受け継ぐ】奈良晒「岡井麻布商店」

2013年09月27日 07時00分
【大紀元日本9月27日】奈良三条通、猿沢の池の近くに「麻布おかい」と看板を上げる店がある。「岡井麻布(まふ)商店」の工房で生まれた作品を並べるアンテナショップだ。店頭には、ひとつひとつ手に取ってみたくなるようなカラフルで楽しい小物がずらりと並ぶ。手提げかばん、小さな袋物いろいろ、草木染のスカーフ、テーブルセンター、
アンテナショップ、麻布おかい(大紀元)

涼しげな暖簾、奈良ゆかりの柄をあしらった壁掛け、それに正倉院の御物をモチーフにしたプリント布巾まで。店の奥には、奈良晒本来の味のある自然色の着尺地が展示されている。これで夏衣類を作れば、さぞかし日本の夏も快適に過ごせることだろう。

 奈良晒(ならさらし)は、古くから奈良を中心に生産されてきた上質の麻織物である。起源は明らかではないが、室町時代には社寺の注文により僧衣などを生産していたという。江戸時代に入り、徳川家康の保護統制策のもと幕府御用品と認められたことによって、奈良晒の名声は全国的なものとなり、販路を広げ晒業は飛躍的な発展をとげた。

 武士の裃(かみしも)や帷子(かたびら)、庶民の夏用衣類、幕地など需要は増え、江戸時代中期には奈良の就業人口の70%以上が何らかの形で奈良晒の生産に携わり、基幹産業となった。しかし、その後次第に奈良晒の独占的地位は崩れ、越後、近江、能登、薩摩などでも上布が生産されるようになり、往時の勢いは失われた。明治へと時代が変わり、武士の没落によって最大の消費者を失い、奈良晒の衰退は決定的なものとなった。

 とはいえ、現在も奈良晒の伝統技術を継承し、発展させ、時代の要請に応えて新しい奈良の名物を織りだしている老舗の工房がある。「岡井麻布(まふ)商店」だ。
岡井麻布商店の工房(大紀元)

春日山に連なる山地の国道をクネクネと登り詰め、急に視界が広がったところに山を背景に田園風景の美しい、奈良市中之庄町がある。「岡井麻布商店」の工房はこの集落の中にある。150年の歴史を持つ風格ある建物と工房の姿勢を表すかのようなモダンなログハウスが背中合わせに並んでいる。その工房を訪ね、5代目当主、岡井孝徳さんに話を聞いた。

 「岡井麻布商店」の創業は1863年、以来今日までずっとこの地で、手紡ぎの糸を使ってトントンと手織りの麻布を生産してきた。奈良晒の原料は主に大麻で、表皮をしごいて糸にするのだ。「戦前はこのあたりで大麻も作っていたんですよ。戦後、進駐軍がやってきて麻薬だというので禁止したんです。今は栃木県産の物を買っています」と岡井さん。

 織りの仕事は午前中にやるという岡井さんの作業を見せてもらった。トントンタン・シュッとリズミカルに緯糸が織りこまれていく。
作業中の岡井孝憲さん(大紀元)

思っていたよりずっと速いスピードで。4日から5日ほどで一反を織り上げるという。奈良晒は緯糸に撚りをかけないで織るのが特徴だ。「緯糸に撚りをかけないから、柔らかくて、水分の吸収が良い麻布が織れるのですよ」。話しながらも手のリズムは変わらない。

 岡井さんがこの仕事を始めたのは40数年前、20歳の時だったという。「喜んで始めたわけでもないのです。友人と同じように大学へ進みたかったですよ」。中学生の時に父親を亡くした岡井さんは、高齢の祖父を助けて技術を継承しなければならなかった。「家業が途絶えるかもしれん・・と言われて考え直しました」

 「30歳を過ぎた頃だったか。奈良の工芸会などから声がかかり作品を出展したりして、外に出ていくようになりました」。
奈良晒の暖簾(大紀元)

異なるジャンルの人と出会うことによって、伝統の技術に加えて新しいアイディアが生まれるようになった。「技術の伝承だけでは、いずれ廃れてしまいます。現在の生活に生かされるものでなくては、将来がありません」

 本来、生成りの糸を織った後、川の水や天日で晒して使う奈良晒に染付をして作品を作るようになったのは、ある染色家との出会いがあったからだ。正倉院柄など奈良らしい柄を染めつけて、暖簾(のれん)を作ったり、壁掛けを作ったりするようになった。「奈良の新しいお土産として買ってくださる方が増えています」「幸い息子も娘も手伝ってくれるようになりました。彼らの若い感覚も大切です。技術は指導しますが、後は自由にやればいいと言っています」

 「自分の店で売れば、お客様の声を直に聞くことができます」。それに、注文の品をたくさん作るより「その時々、自分がよいと思うもの、好きなものを作っていきたいです」という岡井さんにとっては大切な展示室でもあるだろう。「いろんな人との出会いに助けられました」という岡井さんだが、出会いを引き寄せるお人柄とお見受けした。

岡井さんご夫婦(大紀元)

岡井麻布商店6代目を継ぐ息子さんと(大紀元)

岡井孝憲さんが織った着尺地(大紀元)

奈良晒のテーブルクロス(大紀元)

奈良晒の壁飾り(大紀元)

奈良晒の手提げかばん(大紀元)

麻布おかいの店内(大紀元)

麻布の原料・大麻糸(大紀元)

(温)

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